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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
西の国

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街で宝探し②

 鍛冶屋での買い物を終え、一同は木工屋へと足を向けた。

 その道すがら、俺はふと、東の国でも見かけた“あの建物”を見つけた。


「あ、薬屋だ。この街にもあるんだな」


 そういえば──東の国で出会った薬屋のおばあさんは、西の国の出身だと言っていた。

 なるほど、西の国のこの街なら、薬屋があっても不思議では……。

 ……いや、待て。

 全然違和感が“ない”わけじゃない。むしろ違和感の塊だろこれ!?

 だって見ろよ。石造りで統一された街並みの中に、木をくり抜いたような建物が普通に建ってるんだぞ!?

 むしろ東の国の方がまだマシだって。

 浮いてるどころの話じゃない。存在そのものが異物だろこれ!

 ……いや、違和感だらけだって!!


「どうしたんじゃ、そんな難しい顔しおって」

「い、いや……何でもない。ちょっと店の中を見てもいいか? もしかしたら、何かいいものが見つかるかもしれない」

「ええ、別に構わないわよ」


 俺たちは薬屋へと足を踏み入れた。

 店内の雰囲気は、東の国と大差ない。だが、並んでいる商品は微妙に違っていた。


「こいつ……見たことあるぞ。ポルチーニ茸だ!」


 以前レストランで使った食材のひとつだ。日本のスーパーではあまり見かけないというか、ほとんどが乾燥品だったはずだ。


「おおっ、シャンピニオンもあるじゃねぇか!」


 シャンピニオン、日本ではマッシュルームとして売られている。

 俺は狭い薬屋の中とは思えないほど、思わずテンションが上がってしまう。幸い、他に客はいない。


「……オウカ、エイタのテンションが変だ」

「何であんなにはしゃいでおるのかのう」

「ふふ、エイタさん、すごく楽しそうね」


 はしゃぐ俺を見て、オウカとカナメとミルフィスは遠巻きに観察している。

 店主のおばあさんは少し引いている気がするが……まぁ仕方ない。

 俺にとってここは、まさに宝物庫みたいなものなのだから。


「とりあえず、このシャンピニオン、こいつを買おう。これは今日のメインディッシュに欠かせないキノコだ」


 西の国の薬屋で思わぬものを見つけてしまった。


 買った品は店主が紙袋へと詰め込んでくれた、本来の目的地である木工屋へと足を運ぶ。

 そして、店に入って早々──。


「あ、見つけた! これいいじゃん」

「なんじゃ!? もう見つけたのか!?」


 周囲を見回すまでもなく、店に入ってすぐ横、俺は目当ての品を発見していた。そこにあったのは、綺麗に削り出された円柱状の木の棒だ。

 試しに両手で持ち上げてみる。うん、重さも長さも問題なし。これでいい。


「よし、これで決まりだな」


 即断即決。我ながら迷いがない。

 オウカは呆れ半分感心半分といった顔をしつつ、まるで森の古木から生え出たトレントのような風貌の店員へと金を支払う。

 こうして用事はあっという間に終わり、俺たちは木工屋を後にした。


「そういえば、エイタさん。食器を少し見てもよろしいかしら?」

「ああ、構わないけど」


 俺たちは人通りの多い通りを抜け、数分ほど歩いた先にある食器店へと辿り着いた。


「そういえば、西の国はガラス製品もあるんだな」


思わず感心して呟くと、ミルフィスが軽く頷いた。


「ええ。特にワイン用のグラスなんかは種類も豊富よ」


 店先に並ぶ品々を眺めながら、俺は感心したように頷く。

 東の国ではガラス製品なんて高級な髪油の容器くらいしか見たことがない。窓ですら紙張りが一般的だというのに、この国では食器から窓ガラスまで当たり前のように使われている。


 そういえば、ワインはグラスによっても多少味が変わるとも言われているよな。

 まあ、俺はワインはあまり詳しくないから分からないが。


「そういえば、賭けで渡していたあのワインっていくらぐらいするんだ?」

「あら、気になるの?」


 そりゃ気になるだろう。

 オウカが持ってきた“裏の三番”に匹敵する代物だと言われればなおさらだ。


「そうね。金が50って所かしら。大したことないわ」


 なるほど、つまり俺の借金の20分の1って所か。十分高い代物だな。


「うむ、昨日ミルフィスと一緒に飲んでしまったがのう」

「いや、飲んだんかい!?」


 そんな高いものを躊躇いもせず飲むなんてとてもじゃねえが考えられねえな。ははは。


 俺たちはそのまま店内へと足を踏み入れ、目的の品を探し始めた。


「いらっしゃいませ。……おや、ミルフィス様ではありませんか」


 出迎えてくれたのは、羊のような角を生やした初老の男だった。どうやらこの店の店主らしい。


「本日はどのような品をお探しで?」

「ええ、ちょっとワイングラスを探しにね」


 俺は棚に並ぶ器へ視線を向ける。

 綺麗な装飾がされた食器から、シンプルなものまで多彩に置いてある。


「あら、これは新作?」


 ミルフィスは店内の照明にかざして眺めている。

 曇り一つないそのワイングラスは、歪みや傷など一つとなく完璧な状態であった。


 ミルフィスは白い指を顎に当て、しばし考え込む。

 そして次の瞬間、まるで夕食の献立でも決めるかのように店主へ問いかけた。


「このグラスをちょうだい。後、そっちとそっちも。全て館へ運んでおいてちょうだい」

「はっ、かしこまりました」


 店主は慌てた様子で店の奥へ引っ込み、帳簿を取り出してページをめくり始める。

 ミルフィスはページの一部にサインをすると店主はすぐさま木箱に頼まれたグラスを慎重に入れ始める。

 俺はミルフィスが指差したグラスの棚に書いてある値段票を見た。

 価格は金7枚。絶対これ値段見ないで買ったやつだよな。

 ――すげぇ……。

 これが本物の大人買い、いや貴族買いというものか!?


 一方、ミルフィスの他にこの店の商品に興味を示しているものがもう一人いた。

 カナメである。


 彼女は棚に飾ってある円形に加工されたガラスを手に取って眺めている。しかも布製の手袋をして片目には拡大鏡のようなものを付けている。


「……凄い。やはりここは宝の山だ」


 カナメは円形のガラスをいくつか選び会計へと持って来る。

 ちょうどワイングラスの梱包を終えた店主が顔を上げる。

 そしてカナメを見るなり、目を丸くした。


「おお、カナメ様ではありませんか」

「……ここはいいものが揃っている」

「いえいえ、いつもお買い上げいただき、ありがとうございます」


 値段を聞く限り決して安い買い物ではないように聞こえた。一体あのガラスは何なんだろう。

 店主はそれをわらに包んで紙袋に入れて差しだした。

 カナメは受け取ると満足したように店を後にする。


「カナメ、それは何を買ったんだ?」

「……これは時計の風防ふうぼうだよ。文字盤や針を保護するもの」


 なるほど、時計のガラス部分か。あれって風防っていうんだ、初めて知ったわ。


「……これはマナクリスタル製の風防、加工が難しいんだけど、傷がつきにくいの」


 なんかすごい名前が聞こえた気がするけど気にしないでおこう。



 

***



 さて、必要なものはある程度揃った……と思う。

 後は館に戻って夕食の準備をと思ったのだが、まだ2時くらいだ、もう少し街を見ておこうかと思った時

「妾も行きたいお店があるのじゃ、行ってもいいかのう?」

「ああ、別に構わないぞ」


 オウカの後について行くと、辿り着いたのは東の国にもあった店――油屋だった。


「油屋か」


 恐らく東の国と同じく、髪油や香油を扱う店なのだろう。

 そこで俺は、ふと思い出した。


「そういえばオラブオイル買わないとまずいよな。館のメイドたちから借りっぱなしだ」

「あら、そうなの。それじゃあ、まとめて頼んでおこうかしらね」


 俺たちはそのまま店の中へ入った。

 すると奥から現れたのは、一見すると普通の女性――いや、違う。

 よく見ると下半身が半透明の液体状になっており、ぷるぷると揺れている。

 ……スライムだ。

 うん、完全にスライムだった。


「あ、ミルフィス様にオウカ様。いらっしゃいませ~」


 間延びした声で、スライム店主が頭を下げる。


「何か新作の髪油はあるかのう?」

「新作ですか~。それでしたらこちらはどうでしょう?」


 店主はそう言うと、身体を揺らしながら店の奥へ消えていった。

 しばらくして戻ってきた彼女の手には、豪華な装飾が施された箱が抱えられていた。

 それをテーブルへ丁寧に置き、恭しく蓋を開く。


「こちら、新作のデーモンローズオイルになります」


 箱の中には、小さなガラス瓶が5本。

 その全てに、血のように深紅な液体が入っていた。

 オウカは1本手に取り、蓋を開けて香りを確かめる。

 さらに光へ透かし、色合いまで細かく確認した。


「ふむ、なかなか悪くはないのう。いくらじゃ?」

「こちらセットで金35枚となっております」

「ほう、なかなか良心的な値段じゃのう。買ったぞ!」


 オウカは懐から巾着を取り出すと、そこから大量の金銭を取り出してテーブルへ並べた。

 ……金35って言ったよな?

 あれ一本で金7枚か。


「確認させていただきますね~」


 店主は慣れた手つきで金銭を数えていく。


「はいそれでは金35確かにお預かりいたしました」



 オウカが以前使っていた鬼神椿の髪油よりも高いじゃないか。

 女性の“美”への執念って、本当に恐ろしい。


「それとオラブオイルを缶1つ分、頂けるかしら?」

「え!? 缶1つ分ですか!?」

「ええ、缶は館の厨房へ。それから瓶を50本程。そっちは倉庫で構わないわ」

「わ、わかりましたぁ」


 ミルフィスは店主の持ってきた帳簿にサインをする。

 店主はそれとは別の紙に何かを書き込むと足元に置いてある大きな缶に紙をペタリと張り付けた。

「とりあえず、必要なものは揃ったかしら?」

「ああ、あらかたはな。そろそろ館に戻らないと」

「予定としては明後日には戻る予定じゃからのう。別に今日じゃなくて、別の日でも見て回るつもりじゃ」


 明後日帰る予定か。とりあえず、まだ何とかなる感じだな。

 夕食の準備をしなくてはならない。俺たちは館へ戻ることにした。

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