ヴァンパイアの館攻略戦……ただし、ご飯で①
料理人は俺を含め3人、下働きの子は5人か。
紙と鉛筆を渡された俺は、そこに本日の献立と、処理の仕方を書いていく。
「それじゃあ、配置を決める。今日はコース料理スタイルでいく」
「コース料理? それはなんなのですか?」
「料理を前菜、スープとパン、メインディッシュ、デザートの順で提供していくスタイルだ」
俺は紙に書かれた献立を指差しながら伝えていく。
「まず、メインディッシュはハンバーグのトマトソースがけ。担当はヨウコだ。ハンバーグの作り方は覚えているな?」
「ドド肉とお豆腐で作ったやつですね。もちろんなのです」
「あれを今日はボアッカとギャウルの合いびき肉で作ってくれ。ミンチ作業は手間がかかるから、1人連れて行っていい」
「分かったのです」
俺は下働きたちを指差して伝えるとヨウコはすぐさま動き出した
「次にガロ、お前はスープ担当、作るのはキュルティバトゥールだ。大量の野菜を切るから二人連れていけ」
「了解っす」
ガロは俺からレシピを受け取ると、下働きを二人ほど連れて野菜の処理を始める。
俺の前には下働き2人が残された。よく見ると双子なのだろうか。顔がよく似ている。
頭には小さな角が生え、悪魔のような小さい羽としっぽ。インプかな?
「君たち、名前は?」
「私は姉のリントン、こっちは弟のレントンです!」
はきはきした姉と、引っ込み思案な弟。姉弟で下働きに来ているのか。大したものだな。
「よし、リントンは食材準備。レントンは調理器具を準備してくれ。分からないことはすぐ俺に聞いてくれ」
「分かった!」
「わ、分かりました」
さて、それじゃあ、ヴァンパイアの館の攻略といきますか
もちろん、料理でだけどな。
ガロのグループは冷蔵庫からカブ、ニンジン、セロリ、タマネギ、ジャガイモ、ネギ、ベーコン、ニンニクを取り出し、すでに下処理を始めている。
下働きが、慣れた手つきで野菜を洗い始める。もう一人が皮をむき。ガロがカットしていく。
俺は冷蔵庫から、ギャウルの乳が入った大きな缶を取り出した。
「いいか、このギャウルの乳の上澄みが分離しているだろ? これが生クリームってやつだ」
リントンは初っ端から分からなかったようだ。そりゃそうだ、冷蔵庫に生クリームは置いていない。ギャウルの乳の上澄みにあるからだ。
俺はおたまで上澄みをすくい、蓋付きのガラス瓶へ移す。
そして蓋をしっかり閉めると、思い切り振り始めた。 。
「ちょ、ちょっとアンタ!? 何してんのよ!?」
オーグリアがドン引きしたような目を向けてくる。
まあ、知らなきゃ奇行にしか見えないよな。
「何ってバター作ってんだよ」
しばらくしたらふたを開け中身をボウルに移す。
さっきまで生クリームだったギャウルの乳が固形化して即席のバターになっている。
「小麦粉、準備できています」
「ありがとう、助かる」
小麦粉が入ったボウルへバターを加える。割合は小麦粉2に対してバター1。塩を少々。
最初に小麦粉に半分のバターを入れすり合わせるように混ぜ合わせる。残りのバターを入れ今度はへらを使って切るように混ぜ合わせる。
さらに少しずつ水を加え、生地の固さを調整していく。
まとまり始めたところでバットへ移し、そのまま冷蔵庫へ入れておく。
「野菜洗浄終わりました」
「ガロさん、皮剥きの後はどうしますか?」
「手が空き次第、カットに回ってくれ」
視線を向けると、ガロたちの下処理はもう終わりかけていた。
包丁さばきも悪くない。思っていた以上に手際がいいな。
ヨウコたちの方は冷蔵庫からギャウル肉とボアッカ肉を取り出し、包丁で細かく叩いてミンチにしている。
「これが終わったらトマトの皮を剥いて切っておいて欲しいのです」
「は、はい。えっと、沸騰したお湯軽く潜らすと剥けるんですね」
ヨウコと下働きの子はレシピを見ながら確認している。トマトは東の国では見ないし、ヨウコもあまり扱ったことがないのだろう。
下働きがトマトの処理をしている間に、ミンチにした肉を混ぜ合わせ、そこへ卵、パン粉、みじん切りの玉ねぎ、塩、コショウ、を加え、しっかりと混ぜ合わせた。卵は1つだけ卵黄のみを残しておいてもらった。
適量を手に取り、両手で軽くキャッチボールするように叩く。
中の空気を抜きながら形を整え、楕円形にまとめていった。
出来上がったタネはバットへ並べる。
「これって、料理本に載ってたハンバーグってやつ?」
「そうなのです。東の国ではドド肉とお豆腐で作ったのです」
ハンバーグを作っているヨウコを見たオーグリアは、その調理工程をまじまじと見ている。
以前オウカの屋敷で作った料理――ハンバーグ。
しかし、今回はボアッカとギャウルの合いびき肉、どんな味がするか俺も楽しみだ。
6人分作り終えたヨウコはハンバーグのタネをバットに入れ冷蔵庫にしまっておく。
「レントン、器具を準備できたら、石窯オーブンに火を点けておいてくれ」
「わ、分かりました!」
「リントンはジャガイモを処理してくれ、ただし、ジャガイモはカットしたら絶対に水にさらしちゃダメだ。いいな」
「え? 水でさらさないんですか……。わ、わかりました」
切ったジャガイモは水にさらさない。
でんぷんを落とすと、後でうまくまとまらなくなるからだ。
切ったジャガイモをボウルにまとめ、塩コショウで味付けしておく。
次に鍋にブラドベリーと砂糖、水を加え火にかけておく。
ハンバーグの成形が終わったヨウコはハンバーグに使うトマトソースを作る準備をする。
平鍋にオラブオイルをひいて、弱火でニンニクを香りが立つまで炒め、次に玉ねぎを加えしんなりするまで炒める。
「はい、皮をむいて切っておいたトマトです」
「ありがとうなのです」
さらにトマトを加え中火で煮込む。時々かき混ぜながら水分が無くなるまで煮込むのだ。
一方、ガロは鍋にベーコンを入れ、中火でじっくり焼いていく。
脂が溶け、香ばしい焼き色がついたところで、ニンジン、セロリ、タマネギ、ジャガイモを加えてさらに炒める。
そこへニンニクを投入し、香りが立つまで火を通す。
続けてネギとカブを入れ、塩とコショウを軽く振って強火で一気に炒め上げた。
「ええと、ここで水をひたひたまで入れて、煮込んでいると灰汁が出て来るのか。で、20分から30分煮込むんだな」
ガロはレシピを確認しながら慎重に進めていく。
「よし、後は味を見つつ塩コショウで調整をしていくわけだな」
ガロはスープづくりは残すところ煮込みと味付けのみとなった。
俺は冷蔵庫から寝かせておいた生地を取り出し伸ばしていく。
伸ばした生地を器状に形成してパイ生地を作り、フォークで穴をあける。
乾燥したひよこ豆でパイ生地に重しをして、窯へ放り込んで空焼きをする。
ここで時計を確認する。現在の時刻5時35分。
「少し時間があるので今日の献立を教えておきます」
オーグランドとオーグリアは呆気に取られている。俺は構わずに話を続ける。
「前菜はジャガイモのガレットをお出しします。食べ終わりのタイミングを見て次はスープ。今日のスープはキュルティバトゥール、パンはこのタイミングで一緒に出してもらいます」
「きゅるてば……なんだって?」
「キュルティバトゥールです。別名農夫のスープと呼ばれていて、野菜の甘みを生かしたスープで、旨味もしっかり味わえます」
「だから野菜をあんなにいっぱい切っていたのね」
オーグリアが納得したように頷く。
「メインディッシュはハンバーグのトマトソースがけになります。食後のデザートにブラドベリーパイを予定していまして」
「待て待て待て、色々と聞いたことない言葉が出てきて混乱してきたぞ」
「あ、すいません、つい前職の癖で……」
鍋のブラドベリーが煮詰まってきたので、俺は火を止めた。
「とりあえず、今日作る料理は6人前ですし、この厨房、火口も多いし試しに作ってみませんか?」
「へぇ~、面白そう、あたしやってみたい」
オーグリアは手をあげて志願してきた。
「おい! オーグリア!」
「別にいいじゃんパパ、こんな珍しい料理知れる機会なんて滅多にないよ。」
あ、お二人って親子だったんですね。
オーグランドは気まずそうな顔をしながら頬を掻くと
「そ、その、なんだ、俺にも教えてくれ……」
「ええ、もちろんそのつもりです」
俺は石窯オーブンの中に入れたパイ生地を確認する。
うっすらと焼き色が付き、底が乾いている。ちょうど良い仕上がりだ。
俺はパイ生地に煮詰めたブラドベリーを敷き詰め、パイ生地を被せ卵黄を塗り、オーブンへと入れた。
「……さっきお前、ギャウルの骨をスープに使うって言ってたよな。どれくらいかかるんだ?」
その問いに対し、俺は笑顔でこう答えた。
「6時間くらいですね」
「6時間って……そんなに!?」
和食と洋食では、調理に対する考え方そのものが違う。
和食は素材の味を活かし、必要以上に手を加えない。
対して洋食は、素材に徹底的に手を加え、旨味を引き出していく料理だ。
「スープ完成しやした! 味の確認お願いしやす!」
俺はスープの味を確認する。
「よし、スープの味付けは問題ない。ヨウコはどうだ?」
ヨウコは煮込んでいたトマトソースに塩と砂糖を加え、味を整えている。
刻みハーブを散らすと、爽やかな香りが立ち上った。
「完成なのです」
俺はソースの味を確認する。
「よし、ソースも問題ない」
その時、厨房の入り口からメイドが顔を覗かせた。
「伯爵様とご家族の皆様がお席に着かれました」
キュルティバトゥールレシピ
材料(4人前)
ベーコン 3枚
玉ねぎ 1/2個
長ねぎ(白い部分)1/2本
にんじん 1/2本
じゃがいも 1個
大根またはかぶ 1/4本
セロリ 1本
水 500ml
バター 20g
塩・こしょう 適量
(お好みで)クレソンやパセリ、チーズ、バゲット
※コンソメは入れません




