酒呑童子と妖狐
「痛ててて…」
俺は意識を取り戻した。……良かった生きている。
いや、一度トラックに潰されたから、死んでいてここが死後の世界か?
いや、もういい、とりあえず五体満足で動けるから問題ない。
「ここは、家の中か?」
どうやら俺は布団に寝かされていたらしい。体を起こして周りを確認する。
部屋は十畳くらいだろうか。
畳敷きの和室で、襖に障子、壁には古そうな時計まで掛かっている。
妙に懐かしい。
子供の頃に遊びに行った、ばあちゃんの家みたいだ。
……あれ?
もしかして現実世界に戻ってきたのか?
「あ、起きたのです」
声のした方を見る。
そこに立っていたのは、さっき俺をぶん投げた鬼少女ではなく、別の少女だった。
年齢は高校生くらい。
ふわふわした金色の髪に、頭から生えた狐耳。
さらに尻尾までモフモフである。
……狐だ。
どう見ても狐娘だ。
「オウカ様~、起きましたよ」
狐少女はぱたぱたと廊下の奥へ走っていく。
オウカ。
たぶん、あの鬼女の名前だろう。
……まずいな。
このままだと、碌なことにならない気がする。
今のうちに逃げるか?
「うおっ!? お、重っ!!?」
立ち上がろうとした瞬間、左腕にとんでもない重さがのしかかった。
腕を持ち上げようとしても、まるで地面に縫い付けられたみたいに動かない。
「な、なんだこれ!?」
左腕には、鉄製の腕輪のようなものがはめられていた。
しかも、うっすら光っている。
「外れねえし、重てえし……!」
「逃げようとしても無駄じゃぞ」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、そこには黒髪の鬼の少女が立っていた。
腰まで伸びた黒髪。
小柄な体。
だが額には立派な2本の角が生えている。
間違いない。
さっき俺を軽々ぶん投げた鬼だ。
「妾の大切な酒をぶちまけておいて、タダで返すと思うたか」
俺をびしっと指差し、自信満々の笑みを浮かべている。
何をする気だ!?
鬼ってことは、あれか?
俺、このまま食われたりするのか?
「おぬしにはぶちまけた酒の代金分、働いてもらうぞ」
……あれ? 働けばいいの? 俺、食われずに済むのか。
「……ええと、働くって、ここでか?」
「うむ、そうじゃな、妾の身の回りの世話や屋敷の掃除じゃ、奴隷のように働くのじゃ」
……なるほど。
つまり弁償するまでタダ働きってことか。
まあ、食われるよりはマシだな。
「……ええと、どれくらい働けばよろしいので?」
「ふむ……そうじゃのう」
鬼の少女は近くにあったそろばんのようなものをパチパチとはじいた。
「……う~む、え~と、これがこうで。……おい、ヨウコ、ここはいくつじゃ!」
「ええと、ここは5なのです」
……おい、今、隣に聞いていただろ!?
計算適当じゃないのか!?
「……ふむ、全部含めて 50年じゃな」
「……はい?」
いやいや、ちょっと待て、たかが酒樽1つで50年って、ぼったくりもいい所だろ。
「そ、そんなに高いのか、あの酒は!?」
「そ、そうじゃ、あの酒はとても高いのじゃ、酒樽1つで金銭1000もするのじゃ!!」
いや、金銭1000がいくらなのか分からん。
分からんが――。
左腕の腕輪を見る。
これが外れない以上、逃げるのは無理そうだ。
結局、俺に拒否権なんてない。
「……はぁ。分かったよ」
「カッカッカ! タダで従者が手に入ったわ!」
異世界に来て早々、俺は借金を作ってしまったようだ。
「気分が良いと腹が減るのう。おいヨウコ、そろそろ昼飯の時間じゃ!」
「は、はい! すぐに用意するのです!」
ヨウコと呼ばれた狐少女はトテトテと廊下の奥へ走っていった。
登場キャラの名前は全てカタカナになります。理由はこの世界では異世界の文字が使われている為です。




