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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国

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寒天容器の使い道

 昨日、カナメと釣ってきたトラの南蛮漬けが、今日の昼飯だ。

 トラを三枚におろし、それをさらに三等分。軽く塩で下味をつけ、片栗粉をまぶして油で揚げる。

 ここまでなら、ただの味付け前の唐揚げにしか見えない。

 だが――南蛮漬けの本番はここからだ。


 醤油、砂糖、酢を合わせた甘酢に、千切りにした玉ねぎとにんじんを投入。さらに、薬屋で買った唐辛子をひとかけ放り込み、揚げたてのトラをそこへ漬け込む。


 あとは味が馴染むまで寝かせれば完成だ。

 

「おっと、これは……」

 

 視界の端に、半透明のスカイフィッシュもどきが漂っているのが見えた。


 ……ところてん、食いてぇ。


 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 ちなみに、ところてんと寒天って同じ物だと思われがちだが、実は違う。

 ところてんは、天草っていう海藻を煮溶かして固めたもの。あの、つるりとした食感がたまらないやつだ。


 そして寒天は、そのところてんを凍らせて乾燥させたもの。さらにそれを溶かして固め直したものが、一般的に寒天として使われている。


 つまり、似てるようで別物ってわけだ。


 ……ああ、ますますところてんが食いたくなってきた。

 シンプルに酢醤油で食うのがいい。

 想像しただけで口の中に唾液が溜まってくる。

 なんで酸っぱい物って、こう無性に食欲を刺激するんだろうな。

 さっぱりしてるから箸休めにもなるし、一品としても優秀だ。

 あとでオウカに相談してみるか。



 

 本日の昼食

 ご飯、ワカメとねぎの味噌汁、トラの南蛮漬け、五目煮、白菜の漬物



「「「「いただきます」」」」


 昼食を食べ始めたところで、俺はオウカへ声を掛けた。


「オウカ、ちょっと相談があるんだけどさ。金を貸してほしいんだ」

「なんじゃ突然。金を貸せじゃと?」

「ああ。欲しい物があってな。調理器具なんだけど」


 せっかくスカイフィッシュもどきが手に入ったのだ。ところてんを作らないなんてもったいない。

 あの独特の喉越しは、どうしても再現したかった。


「金属の調理器具なら、ほとんどは鍛冶屋さんに売っているのです」

「受注生産とかってできるのか? 例えば、こういう形に作ってくれ、とか」

「できなくはないが……特注品は高くつくのう」


 まあ、そりゃそうか。

 必要なのは寒天を固めるための容器と、ところてん突き。

 容器は鍛冶屋、ところてん突き器の方は木工職人に頼めばいけそうだな。


「寒天容器があれば、いろいろ料理が増えるかもな」

「よし、買うのじゃ!」


 オウカは懐から巾着を取り出して、金銭を5枚も渡してきた。

 随分太っ腹だな。

 とりあえず、昼食が終わったら、これで調理器具の注文をしよう。


「しかし、この南蛮漬けというやつ中々美味いな!」

「だろ? 簡単に作れるし、魚なら大体なんでも合うんだよ」

「ふむふむ……醤油と砂糖と酢で漬け込むのですね」


 隣ではヨウコが真剣な顔でメモを取っていた。

 そういえば以前、ネコタさんが「広報に料理を載せるのもいいにゃ」と言っていたな。

 もしかすると、この世界に料理本が生まれる日も近いのかもしれない。


「ヨウコ、その料理本を広報に載せるのか?」

「はい、これを載せればみんなお料理が作れるようになるのです」


 確かに悪くない。

 だが、料理だけを並べるのは少し危うい気もした。


 俺がこの世界へ来た当初を思い出す。

 米の炊き方も、出汁の取り方も知られていなかった。今でこそ当たり前のように作っているが、最初はそこから教える必要があったのだ。


 俺はヨウコから借りた原稿をぱらぱらとめくる。

 案の定、基本的な説明が抜け落ちていた。


「ヨウコ、この本はすごく良いと思う。ただな、これは俺たちみたいに基本を知ってる者だから理解できる内容なんだ」

「ふぇ?」

「最初の方に、料理の基礎を書いたほうがいい。例えば米の炊き方、出汁の取り方、漬物の漬け方……そういう部分だな」


 その瞬間、ヨウコの耳がぴんと立った。


「はっ……! た、確かにそうなのです! これでは私たちにしか分からない本になってしまうのです!」

 

 ヨウコは慌てて本を開き、綴じ紐をほどくと、新しい紙を挟み込んで書き始めた。


 ――米を洗う回数。

 ――火加減。

 ――昆布とカタオ節で取る出汁。


 うん、いい流れだ。


 俺は横から「衛生面も大事だぞ」と助言を加える。


 食材を洗うこと。

 包丁を使った後は水で流すこと。

 火を使う時はその場を離れないこと。


 どれも地味で当たり前の内容だ。

 だが、その“当たり前”の積み重ねこそが、文化を作る。


 俺は熱心に鉛筆を走らせるヨウコの邪魔をしないよう、昼食後のちゃぶ台を一人で片付けることにした。

 いつもなら二人でやる作業だが、今のヨウコには止まってほしくない。


 午後の家事を終えた後、俺は鍛冶屋へ向かうことにした。


 場所は聞いてあるから迷わない。

 問題は、俺の欲しい物をうまく伝えられるかどうかだ。


 念のため、紙と鉛筆を借りて図面まで描いてきた。

 準備は万全――のはずだ。


「おう、いらっしゃ――……ん? なんだ、オウカの従者じゃねぇか」


 店に入った瞬間、聞き覚えのある低い声が飛んできた。


「あ、先日はどうも」


 ……ボス!?

 まさか、この人の店だったのか。

 危うく口に出しかけて、慌てて飲み込む。

 相変わらず眼帯がよく似合う渋いおじさんだ。

 よく見ると左足は義足のようになっている。

 隻眼に義足の鍛冶師。

 一本だたらとか、その辺りの妖怪なのだろうか。

 店内を見回せば、鎌や鍬といった農具から、鍋や包丁などの調理器具まで所狭しと並んでいた。

 奥からは、赤熱した鉄を叩く甲高い音が響いてくる。

 いかにも“職人の店”という空気だ。

 

「実は作っていただきたい容器がありまして」

 

 俺は紙に書いた寒天容器の内容を見せつつ説明した。

 ボスは立派な顎髭をさすりつつ、棚から金属の容器を一つ掴んで俺に見せた。


「つまり、この箱型の容器に――この紙に描いてある“取っ手付きの底板”をぴったり合わせたいって訳か」


 その容器を見た瞬間、俺は思わず頷いた。

 理想そのものだった。


 この底板があれば、固めた寒天を崩さず綺麗に取り出せる。


「はい。それに合う形で作っていただければ」

「構わねぇが、こういう受注品は安くつく仕事じゃねぇぞ」


 ボスは容器を指で数を数えながら値段を計算していく。


「容器代に鉄板代、それと作業代だな。この程度なら2、3時間もありゃ終わる。全部合わせて――金銭2枚ってところだ」


 意外に高いが、今回は受注生産だ。仕方ないだろう。

 俺は金銭2枚を渡し、店を後にした。遅くとも3時間後には完成するらしい。さすがボス、仕事が早い。


 さて、次は木工屋だ。ところてん突き器を頼まないとな。


「ここが木工屋か……結構デカいな」


 木工屋は建物そのものが大きいというより、敷地が広かった。切り出した木材が山積みにされ、あちこちでは建築職人らしき妖怪たちが忙しそうに動き回っている。どうやら建築や修繕も請け負っているらしい。


 広い敷地の一角には小屋が建てられており、そこでは木工細工が販売されていた。

 俺は店内へ足を踏み入れ、ぐるりと見回す。


 並んでいる品はどれも手作りらしく、一つ一つに細かな技巧が施されている。

 ……あ、これは豆腐作りで使っていた道具だ。ここで作られていたのか。


 「いらっしゃい……って、君はアズキダのところで豆腐作りを教えていた人間じゃないか」


 奥から現れたのは、顔も腕も木でできた木人の妖怪だった。頭からは細い蔦が幾本も伸びており、まるで髪の毛のように揺れている。


「すみません。木工細工の受注をお願いしたいんですが」

「へぇ、豆腐の次は何を作るんだい?」


 俺は設計図を書いた紙を広げ、ところてん突き器の説明を始める。


「なるほど。調理器具か。本体は細長い四角筒で、先端には糸を格子状に張る。そして後ろから押し出せるようにする、と」


 木人店員は、そろばんのような道具をパチパチと弾きながら、紙に何かを書き込んでいく。


「そうだね。材料費と作業代込みで銀貨5枚かな。これなら30分もあれば作れそうだ」


 ……いや、思ったよりずっと早いな。

 せっかくだし作業を見学してもいいか尋ねると、木人店員はあっさり頷いた。


 店の受付のすぐ後ろには作業場があり、そこには椅子と大きな作業台が置かれている。木人店員は椅子に腰を下ろすと、棚から小さな木板をいくつも取り出した。


 木板には細かな溝が彫られており、その溝同士を噛み合わせることで、釘を使わずともぴたりと固定される仕組みらしい。


 職人の指先が迷いなく動くたび、木板が次々と組み上がっていく。


 ものの数分で、四角い筒状の箱が完成した。


 しかも寸法は完璧だ。形もいいし、内部の広さも申し分ない。


 さらに木人店員は、筒の出口付近をL字型の定規で丁寧に測り、炭で印をつけていく。


 そこへ小さな穴を等間隔に開け、細い木釘で出っ張りを作ると、今度は道具箱から細糸を取り出した。


 糸を木釘へ一本一本結び付け、格子状に編み込んでいく。

 その手際が凄まじい。

 糸は寸分の狂いもなく張られ、まるで機械で作ったかのように美しい。


 ……完全に職人技だ。


 俺が感心している間にも作業は進み、あっという間にところてん突き器の本体が完成してしまった。


 続いて、突き出し棒の板部分を作業台へ置き、木人店員は目線を板と水平に合わせてじっと睨みつける。


 恐らく歪みの確認だろう。

 次の瞬間、木板へ小さく穴を開け、そのまま取っ手の棒を真上から打ち込んだ。

 カンッ、と小気味よい音が響く。


 ……凄い。


 取っ手は寸分違わず垂直に立っていた。


「ははは、30分って言ったけど、ちょっと盛っちゃったねぇ。15分で終わっちゃったよ」

「いや、お見事です。いいものを見せてもらいました」


 俺は金銭1を支払い、釣りを受け取ると、完成したところてん突き器を抱えて店を後にした。

 さて、鍛冶屋の容器が完成するまでまだ時間があるな――。

 そう思いながら通りを歩いていると、見覚えのある狐耳が視界に入った。

 ……あれ、ヨウコか?


「ほ、本当にこれを広報と掲示板に載せてよろしいのですか、ヨウコさん」

「はい、大丈夫なのです。本人からも許可を得ているのです」

「お、ヨウコ、例の料理本の広報か」

 

 掲示板の前にはヨウコと、牛の角を生やした男性が立っていた。

 妖怪……牛人間?

 いや、そんなのいたっけ。

 ……まあいいか。たぶん広報担当とかそういう感じだろう。


「ああ、あなたがヨウコさんのおっしゃっていたエイタさんですね」


 牛角の男性は、営業マンのような爽やかな笑みを浮かべながら、丁寧に一礼した。


「私、この村で広報を担当しております。名をクダン、家名をウシミと申します」


 うわ、この人絶対スーツとネクタイ似合うタイプだ。

 完全に出来る営業マンの雰囲気なんだが。

 クダンさんは、手に持っていた料理本へ視線を落とし、どこか困ったように眉を下げた。


「実は私、この料理本を本当に広報へ載せてよいものか悩んでおりまして」

「え、なぜですか?」

「はい。この本を印刷して販売すれば、それだけで莫大な利益になるでしょう。それほど価値のある内容です。……それを無料公開するなど、普通では考えられません」


 ……ああ、そうか。

 この世界だと、知識そのものが財産なんだな。

 料理本かぁ。

 原作者・俺、みたいな感じになるのか?

 ……ちょっと響きいいな。


「料理本を印刷して売り出すのも悪くありませんが、まずは基礎を知ってもらう必要があります。ご飯の炊き方、出汁の取り方、漬物の漬け方に味付けの基本……それだけではありません。衛生面や火、油の扱い方まで、この本には記してあります」

「な、なんと……そこまで載せているのですか!?」

「ええ。その“当たり前”が、一番大切なんですよ。どんな達人だって、最初は基礎から始めるでしょう? だからこそ、多くの方に無料で知ってもらいたいんです」


 料理の基礎を学び、理解した者たちが成長すれば、やがて新しい料理を生み出す者も現れるかもしれない。


 現にヨウコがそうだった。


 それに、この先を考えるなら、まずは基礎を広めなければ始まらない。ゲームで言うなら、これは初心者向けのチュートリアルみたいなものだ。


 ――まあ、タダより高いものはない、なんて言葉もあるけどな。


「……いやはや、このクダン、感服いたしました、まさかそこまでお考えとは。これは広報に載せないのは失礼になりますな」


 クダンさんは感心したように何度も頷きながら、手帳へさらさらと何かを書き込む。そしてヨウコから料理本を受け取ると、胸に抱えて大事そうに微笑んだ。


「こちらは私めが責任を持って印刷所へ届けましょう。私には見えますぞ。この料理本こそ、この世に新たな一歩を生み出す書物になると」

「ははは、大げさですよ」


 でも、多くの人が隠さずに料理を広めてくれたらそれでいいんじゃないか。

 ……まあ、人じゃなくて妖怪なんだけど。

 でも、この世界の妖怪たちは人間とほとんど変わらない。今さら細かく気にする必要もないだろう。

 

 一度屋敷へ戻った俺とヨウコは、竹籠を抱えて買い出しへ向かった。

 そして、その帰り道。

 まだ少し時間は早かったが、俺たちはそのまま鍛冶屋へと足を運ぶのだった。


「おう、小僧、待たせたな!」


 作業場に入った瞬間、ボスが豪快に笑いながら声をかけてきた。

 いやいや、仕事が早すぎるだろ。まだ昼の2時前じゃないか。

 代金はすでに支払い済みだ。俺は受け取った容器を軽く掲げ、形を確かめる。

 ――うん、理想通りだ。 


「ありがとうございます、ボス!」

「ん? まあ、また何かあったら寄ってくれや」


 思わず口に出ちゃったぜ。

 まだ時間も早いし、せっかくだ。この新しい道具を使って、皆におやつでも作ってやるか。


 屋敷へ戻ると、ちょうどオウカが酒蔵から出てきたところだった。


 お、都合がいい。

 酒造りをしていたなら、あれを持っているはずだ。


 「オウカ、蒸し器って持ってるよな?」

 「む? 持っておるが……何じゃ、使いたいのか?」


 オウカがじろりとこちらを見る。

 その顔は少し意地悪そうだ。

 ふっ、いいだろう。

 ならばこちらも切り札を出してやる。


「今からおやつを作るのに必要何だけどなぁ、無理なら仕方がないかぁ」

「な!? お、おやつじゃと、よし、今すぐ貸すぞ。そこで待っておるのじゃ」


 オウカは慌てた様子で再び酒蔵へ駆け込んでいく。


 数分後、両手で蒸し器を抱えながら戻ってきた。


 「今日のおやつはその蒸し器を使うんじゃな。なんじゃなんじゃ、何て名前のおやつを作るんじゃ?」

 「おっと、それは出来てからのお楽しみだ」


 今回作るのは、この寒天用の型と蒸し器を使った和菓子だ。

 ちなみに、この型は寒天を固める以外にも使い道がある。


 炊事場へ向かった俺は、さっそく準備を始めた。


 ――ところてん突きは夜のお楽しみだな。


 まず鍋を二つ用意する。

 片方には水を張り、蒸し器をセット。もう片方には砂糖、米粉、水、塩を入れる。


 秤なんて便利な物はないから、全部目分量だ。まあ、この世界ではいつものことだな。

 割合は、砂糖1に対して米粉2、水4。塩はひとつまみ程度でいい。

 材料をしっかり混ぜ合わせたら、中火にかけながら木べらで練っていく。


 すると次第に生地に粘りが出て、とろりともったりの中間くらいの重さへ変わっていく。


 よし、ここだな。


 そこで今日作ってもらった型の出番だ。

 軽く水で濡らした型に、生地を流し込む。


 そのまま蒸し器へ入れ、20分から25分ほど蒸せばいい。


 蒸し上がった直後はかなり熱い。型ごと水に浸して冷ましてやる必要がある。

 こうすると取り出しやすくなるんだよな。

 十分に冷えたら型から外し、食べやすい大きさに切り分けて皿へ盛りつける。


 さて――完成したのは、もっちり柔らかなういろうだ。


「ういろうの完成だ」

「なんかプルプルしているのです」


 気づいたらもうそろそろ3時だ。久しぶりにお茶の時間といたしますか。


「ぬぅ、何じゃこれ、豆腐か!?」

「……オウカ、これ豆腐じゃない、少し色も違う」


 オウカは不思議そうに首を傾げつつ、フォークの付いた匙でういろうをそっと切り分ける。そして、慎重に口へと運んだ。


 「おお、これは美味いのじゃ」

 「……もちもちで美味しい」

 

 ふう、よかった。どうやら気に入ってもらえたらしい。


 俺もひと口、ういろうを口へ運ぶ。歯を押し返すようなもっちりとした弾力。それでいて、しつこさはない。これがいい。


 寒天容器――いや、正体不明の“スカイフィッシュもどき”を使えるようになったのは大きい。これでおやつの幅は一気に広がる。寒天寄せ、テリーヌ……場合によってはパウンドケーキすら夢ではない。


 甘味の可能性に思いを馳せつつ、穏やかな茶の時間は流れていった。


 で、おやつの後はすぐにでも夕食の時間になるのだが……。


 「の、のう、エイタ、なんか今日の夕食は軽めの物にしてくれんかのう」

 「……カナメもご飯少しで良い」

 「……うん、まあそう言うだろうと思ってたよ」


 ういろうは米粉で出来ている。しかも今回は大きめの型で作ったため、見た目以上に“腹に来る”代物になっている。


 つまり、ご飯を食っているのも同じだ。


「安心しろ。今日はちゃんと軽めにしてある」

「おお! さすがじゃ、エイタ!!」


 さあ、さっぱり系の料理ということで、早速あれの出番だな。


 まず、水にスカイフィッシュもどきを入れ火にかける。

 しかし、問題なのは、こいつがところてんとも寒天とも言えない固さをしているのだ。


「……よし、今回は実験だな」


 前回のデータを踏まえ、スカイフィッシュもどきの量はやや控えめ。

 これで柔らかく仕上がるはず――という希望的観測を胸に、俺は静かに様子を見守る。


 ところてんが冷めるまでメインの準備をしよう。


 まず用意するのは――ドドのむね肉だ。


 水を張った鍋を火にかけ沸騰したらドドのむね肉を入れ、茹でる。

 火加減は繊細に。ここで茹ですぎれば、一気にパサつくからだ。

 お湯から上げたら、冷水に浸けて粗熱を取り、指でほぐす。


 ここでたれ作りだ。


 味噌、醤油、砂糖、酒、酢、ここまでを同じ分量で入れ。

 本来ならここにごま油とすりごまが入るはずだが……この世界にはない。


「……くっ、ごまがないのが惜しいな」


 代わりに、なたね油を少量。

 そして、おろしにんにくを好みで加えれば──タレは完成だ。


 きゅうりを千切りにして、その上にほぐしたドド肉を載せてたれをかければ。


 バンバンジーの完成だ。


「えいたさん、固まってきましたのです」

「よし、試してみるか」


 俺は寒天容器の取っ手を掴み、中からところてんを取り出した。プルプルと揺れるほどの柔らかさ、それでいて崩れない。これは……成功か?


 試しに一つをところてんつき器にセットし、押し出してみる。寒天みたいにカチッとした固さではなく、プルンとした柔らかさ、そう、それはまるで……。


「ところてんの柔らかさだな」

「これが”ところてん”なのですね」


 いいぞ、実験は成功のようだ。どうやらあのスカイフィッシュもどきと水の割合で固さが調節出来るみたいだ。これなら寒天の固さにも出来そうだぞ。


 俺はところてんに醤油、酢を合わせたものをかけ、上に鰹節をかける。シンプルだけど、こういうのでいいんだよ。


 「お待たせ、今日はさっぱりとしたものを中心とした夕食だ」


 本日の夕食

 ご飯、白菜のみそ汁、ドドのバンバンジー、ところてん、きゅうりと鰹節の浅漬け


「「「「いただきます」」」」



「こいつがところてんというやつか」


 オウカはところてんを掴み不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ、さっきまで水だったものが固まって麺状になって出てくるんだもんな。


 オウカは試しにと一本だけ食べてみる。

 

「む、結構うまいぞ」

 

 続けざまに啜るようにところてんを食べる。


「……このドド、冷たいの?」

 

 そうだな、今まで温かい料理しか出していなかったな。炒めたり焼いたりするとどうしても油を使ったりするからな。

 そうなると、やはりバンバンジーは不思議な料理と言えるのだろう。カナメは試しにたれをつけてドド肉だけ食べてみる。一口食べたら、また一口と、どんどん無くなっていく。


 やはりところてんの食欲増進効果は凄いな。

 オウカなんてもう、バンバンジー丼にして食ってるよ。


「腹がいっぱいだと思っておったが、食ってしまったのう」

「……残さず食べた、偉い」

 

 大丈夫、信じていた。

 お腹がいっぱいといいつつも結局食べてしまった。やはり凄いなところてん。


「これはやはり、おやつは控えないといけないかぁ」

「ぬわっ!? そ、それだけはダメなのじゃ!」

「……おやつ禁止反対、我々は抗議する」

 

 まあ、さすがに今回のおやつは作りすぎたからな。食べ過ぎない程度に作るとするか。


 とにかく、今日も完食したので、両手を合わせまして。



「「「「ごちそうさまでした」」」」

ういろう

材料

米粉:100g

砂糖:50g

水:200ml

塩:1g(ひとつまみ程度でも可)


バンバンジー(鶏むね肉)

材料(2〜3人分)

鶏むね肉…1枚(約250〜300g)

きゅうり…1本


たれ

味噌…大さじ1

醤油…大さじ1

砂糖…大さじ1

酒…大さじ1

酢…大さじ1

ごま油…小さじ2

すりごま…大さじ1

おろしにんにく…小さじ1/2(好みで調整)

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