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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国編

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いざ、豆腐作り

 さて、今日は豆腐作りだ。


 本日の朝食は、ご飯、玉ねぎのみそ汁、だし巻き卵、大根とにんじんと椎茸の煮物、ナスの漬物だ。


 オウカ曰く、だし巻き卵は毎日食べても飽きないとのこと。確かに毎日卵が取れるし、丁度いいのかもしれない。


 家事をある程度終わらせた俺とヨウコは、醤油屋へと向かった


「おう、待っていたぜ、エイタ。こっちだ、入ってくれ!」


 醤油屋について早々、小豆洗い大将が豪快に挨拶してきた。そんなに待ち遠しかったのか、すぐに俺たちは店の奥へと通された。


「お前さんが言っていた道具、そろえておいたぜ」


 どうやら大将は今日のために木工屋、織物屋など色々走り回ったらしい。

 木製の枠とその上下を押さえる木板、豆腐を包む布、浸水させた大豆、そして重要なのが……。


「言われた通り、海水を沸騰させて煮詰めといたぜ1割くらいまででいいんだよな。布で濾して水と濾した物で分けておいたぜ」


 濾過して残ったものは塩ではなく石灰、そして海水を沸騰させて10分の1まで濃縮した水、これはまだにがりではない。ここからさらに煮詰めるのだ。第一段階は時間がかかるのであらかじめ煮詰めてもらっておいた。第2段階は説明しながらの方が良いだろう。


「ありがとうございます。ここからさらにこいつを煮詰めるんです」


 俺は煮詰めた海水を受け取った。見た感じ300㏄位だろう、これならすぐに煮詰められる。

 

 俺は平鍋に煮詰めた海水を入れ火にかけた。ここから先は平鍋の方が煮詰めやすい。

 沸騰してしばらくすると、液体の中に塩ができ始める。これが目安だ。

 シャーベット状になったら火を止めて、さらに濾過する


「これを濾過したら、布にたまっているのが塩、絞り出てきた液体がにがりです」

「結構な量煮詰めたつもりなんだけどな、さらにそこまで煮詰めるのか」


 恐らく最初に3リットル位から煮詰めたのだろう、それでも取れるにがりはわずかだ。もしも足りない時は、この場で作るしかないな。


「それと、すり潰す道具が必要ってことだからな、おい、持ってきてくれ」


 奥から従業員たちが重たそうに運んでくるそれを、俺は歴史博物館で見たことがある。


「おお、あれは石臼か」


 俺が作った時はミキサーを使ったが、そんな便利なもんはない。まあ、昔の人も石臼で作ったって聞いたことがあるしな。

 さあ、豆腐作りの開始だ。まず、浸水した大豆の水を切り、石臼で大豆をすり潰す。この石臼は大きいので数人で回すしかない。

 もちろん俺も手伝うぞ。石臼に板が設置してあり、引いた大豆が板へと落ち、そのまま桶へと流れていく。


「ふう、結構大変なんだな」


 とにかく石臼が重い、俺たちは力を込めて回す、全ては豆腐作りのために。

 


 ***



「よおし、何とか潰し終わったな、この後はどうするんだ?」


 すり潰した大豆は桶にたまっているので、それと同量の水を目分量で量り鍋で混ぜ合わせたら、俺は焦がさないよう慎重に温める。


「これを焦がさないように温めて、熱いうちに布で絞るんです」

「そ、そいつは大変だなぁ」


 よし、そろそろだな。俺は鍋を火から離す。鍋の周りに器と布を持った従業員がわらわらと集まってきた。


「こんな時こそ妖海(ようかい)戦術だ。お前ら、準備はいいか!!」

「へい、親父ぃ!!」


 すげえ連携だ。結構な量なのだが、あっという間に絞りあげられていく。

 さすがに熱いであろう、ざるの中で木べらを使ってしっかりと絞っていく


 ……ってか、妖海(ようかい)戦術ってなに?


「布に残ったのはおからって言って、大豆の絞りかすみたいなものです。それ自体も食べられるし、多いときはドドの餌にしちゃってもいいと思います」

「そういえば、アカシの野郎が餌代わりにうちの大豆買ってやがるから、丁度いいかもな」


 大豆は栄養もあるし、ドドの餌には丁度いいだろう。あ、うちも少し貰おう、おからはいろんな料理に使えるしな。


「こっちの、液体の方が豆乳って言って、こっちを使うんだ」

「ほう、ギャウルの乳みてえだな」


 ギャウル? この世界の牛みたいなものなのかな?

 そんなことを考えつつ俺は焦げないように豆乳を温める。


 一応、この先のことも考え、俺は屋敷から持ってきた大きさの同じ2つの鍋で同じ量に分けておいた。


「ここから先が結構重要で、にがりを入れるんですけど、入れる量の調整がなかなか難しいんですよ」

「なるほど、その為に2つの鍋に分けるってことだな」


 豆腐は豆乳が500mlに対して小さじ1杯と言われている、つまり1%だ。

 しかし、計量カップや計量器に似た吊るしはあっても正確には量れない。


 さらににがりの濃度によっても変わってしまうので、ここから先はトライ&エラーだが、俺は今日のためにある秘策を立ててきた。


「このすこし大きな升でこの線まで入れて、それを10杯入れれば、この匙で100杯分と同じになるはずだ。今回はこの鍋のこの辺りまで入れてくれ」


 俺がやった秘策とは、自分で計量カップを作成したのだ。

 匙で10杯水を入れ、升に線を入れる。さらにその升でなべに10杯水を入れ、その位置を短刀で傷を入れておいた。

 何もやらずに目分量でやるよりかは幾分マシにはなるだろう。


「お、鍋二つとも線まで入れられそうだ」

「少し、残っちまったな、どうする?」


 丁度コップ一杯分の豆乳が余った。

 丁度いいし、豆乳がどんな味か試してみるのもいいかもしれない。


「試しに飲んでみますか? 少し癖がありますけど」

「じゃあ、試しに飲んでみるか」


 小豆洗い大将が豆乳をぐいっと一気に飲み干した。


「ぐわっ!? こりゃすげえ味だな、ギャウルの乳の方がまだいいぜ」


 豆乳は好き嫌い分かれるからなぁ、俺は結構好きだぜ豆乳。あと、鍋物の出汁に使うと濃厚な味になって美味いんだよな。


 さて、ここからが重要なにがりを加える工程だ。少なすぎても固まらず、多すぎても固すぎる。実に難しい所だ。


「まずこっちの鍋から行きましょう、中火で沸騰前まで温めます」


 豆乳の入った鍋を中火にかけ、焦げないようよく混ぜながら温める。温めている間に、にがりに水を加え少し薄めておく。


「沸騰前まで温まったら、この薄めたにがりを2、3回に分けて入れて混ぜ合わせます。1度入れたら3分位放置して、再びにがりを入れて混ぜます。混ぜすぎると固くなりすぎるので、ほどほどに混ぜてください」


 混ぜていくうちに、豆乳の中に白い塊が出て来る、豆乳が固まってきている証拠だ。

 にがりを入れて混ぜたときに透明な部分が出てきたころがにがりを止める目安だ。


「蓋をして20分ほど待ちます」

「すげえな、だんだん固まっていくのが分かるぜ」


 小豆洗い達は、皆一様に驚いている。そりゃ彼らにとってはあまりにも不思議な光景だからだろう。


「親父、こりゃ、華の国にいる叔父貴にも手貸してもらわないといけやせんぜ」

「そうだな、にがりを作るにしても海水が必要なら、華の国で作った方が早えからな」

「華の国ってどんなところなんですか?」


 海水が必要ならってことは海が近いのかな?


「そうだな、華やかな街でいろんな物や妖があの街に集まるんだ。料理番もいて店をやっているやつもいたりな。あと、海が近いから海産物も多いぜ」


 おお、海産物か。この村じゃ干物しかないからな、たまには新鮮な魚が食いたいぜ。いずれ行ってみたいなぁ。

 そんな話で時間を潰していたら20分なんてあっという間だ。


「そろそろですね、開けます」


 蓋を開けると、そこには固まりかけた豆腐があった。このまま汁ごと盛り付ければ、おぼろ豆腐になるのだが、今回はしっかりと固めるのだ。


 木枠の底に板をはめて升状にする。さらに中に布を敷いて準備完了。敷いた布の中に鍋の中の豆腐を入れていく。


 満タンになったら上面も布を被せ、さらに上から木板を被せる。


 上面の木板は上に重りを置いて絞れるように、木枠よりも少し小さくなっている。この上に乗せる重りも重要で、重ければ重いほど固い豆腐になる。


「この状態でさらに30分ほど待ちます。その間にもう一方も作ってしまいましょう」

「おう、こっちは俺にやらせてくれ」


 もう片方は小豆洗い大将がやるようだ。にがりは最初のよりも少し多めに入れたようだ。豆乳を温め、にがりをいれ、蓋をして20分待機。

 一度見て覚えてしまえば、あっという間だ。


 そして気づけば、こちらの豆腐の圧縮時間も終了していた。


「こちら時間になりましたので、枠から豆腐を外します」


 大きな鍋に水を張り、その中に木枠ごと沈め枠から外す。


 さらに覆っている布を外せば


「こいつが……豆腐です」

「おおおおお! 何だこの白い塊は」

「これがお豆腐なのですか!?」


 固さ的にスーパーの木綿豆腐位だろうか、分量は丁度良かったみたいだ。


「まな板と皿と、あと包丁を持ってきてください」


 従業員の一人駆け出し、すぐに持ってきてくれた。俺は包丁で、切り分けて皿に盛る。


「最初はお好みで醤油や塩で召し上がってください」


 切り分けた豆腐を各々が調味料をかけて、匙ですくい口に運ぶ。


「むむ、こいつは美味え、濃厚な大豆の味がたまらんな!」

「こ、これは美味しいのです」


 俺も一口いただこう。

 塩を軽く振る。


 ――あぁ、これだ。


 大豆の旨味が舌の上でほどけていく。余計な味を足さない分、素材の力がそのまま 伝わってくる。


 豆腐は塩が一番合う、というのはやはり間違いじゃない。


「この豆腐はそのままでもいいですが、料理に使ってもいいんですよ。例えばみそ汁の具とかにも。ただ、痛みやすいので、作った次の日までには使いきってください」

「みそ汁かぁ、うちの嫁に頼んでみっかな」


 試食をしている間に、もう一方の鍋で作っていた豆腐も完成したようだ。


 水に入れ枠から外してみる。気持ち少し固いかな。こちらも皆で試食だ。


「こっちはさっきのよりも少し固いか、最初に作った方が丁度いいみたいですね」


「そうだな、俺も最初の固さの方が好みだ。しかし、楽しくなってきたぜ。こりゃ醤油や味噌を初めて作った時と同じ感覚だ!!」


 豆腐作りに関しては今後、彼らに任せる方が良いだろう。


 従業員の数も多いし、豆腐が広まればさらに人も増やせる。俺も気軽に豆腐を買いたいしな。


 おっと、そろそろ昼食の時間になるじゃないか。遅れたらオウカにどやされるしな。

 丁度いい区切りだ、屋敷に戻ろう。


「それじゃ、俺たちはそろそろ屋敷に戻ります。豆腐作り頑張ってください」


「おう、ありがとうなエイタ。絶対に美味い豆腐作ってやっからよ」


 後は彼ら次第だが、やってくれるはずだ。


 俺とヨウコは持ってきた鍋を洗って屋敷へと戻ることにした。

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