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醤油屋騒動

「なんだここ、でっかいな……」


 醤油屋に着いて開口一番、俺はつぶやいた。それほどまでにでかい屋敷が建っており、その店先も賑わっていた。


「醤油屋のアズキダさんは料理で醤油と味噌を作った方なのです。秘伝の醤油と味噌は華の国でも人気で、いまや大富豪なのですよ」


 華の国なんてのもあるのか。いずれ行ってみたいものだな。

おっと、それよりも、醤油だ、あと大豆売ってたりしないかな。

 俺は店内を見て回る、今まで見てきた他の店と比べて店内が広く、品ぞろえも豊富だ。メインはやはり、醤油と味噌。異世界文字で秘伝の自家製と書いており、多くの客がそれらを購入している。


「お、大豆があるぞ。なに、小豆もあるのか!?」


 ヨウコがオウカから毎月給料とは別に食費を預かっている、頼めば買ってくれるのだろうか。

 大豆といえば、豆乳やおから、豆腐は……、見当たらないな、あと納豆も。

 

「いやあ、醤油や味噌がこの世界にあって助かったぜ。あれ作るのに凄い時間かかるからなぁ」

「え!? そうなのですか?」

「ああ、味噌は早くても3から4か月、長くて1,2年、醤油に関しては最低でも半年から長くて3年はかかるんだよ。ちなみに醤油も味噌も、大豆から出来ているんだよ」


 何でこんなに詳しいかって? 作ったことあるからな、小学生の自由研究で、ばあちゃんに協力してもらってだけどな。作品発表に1年かかりますって言ったら担任に長すぎだと怒られたっけな、ははは。


「おい、お前、何でうちの醤油や味噌の作り方知ってんだ?」

「え?」


 俺は突然数人の妖怪に囲まれた。全員妙に目が大きくて、背が低く、法師のような恰好をしている。なんか、漫画で見たことあるぞ、そう、小豆洗いだ。丁度外でも、小豆洗いが大豆洗ってる。いや、何で小豆洗いが大豆洗ってんだよ!?


「もしやこいつ、うちの秘伝を盗み見たんじゃねえか!?」

「そうに違えねえ、ひっ捕らえろ!!」

「お、おい、何すんだよ!?」


 俺は妖怪数人にその場に取り押さえられた。

 

「親父はどこに行ったんだべ?」

「親父は会合さ、行ったべよ、連れていくべ!!」

「いてててて、引っ張んなよ、おい!!」


 俺は引きずられるように外へと連れていかれた。


「エ、エイタさん!!」




  ***




「そういえば、オウカ、お前さん、新しい従者を雇ったんだって?」


「そうじゃ、こやつがなかなか面白いやつでのう」


 村の中央にある集会場では会合が行われていた。オウカは出された茶をすすりながら、今日までのことや村のこれからのことを話し合っている。


「ああ、もしかしてあのへんな着物着た男かい? あたしの店で安い油買って喜んでいたねえ」

「変な着物とは何だい、あんな斬新な服見たことないよ、私、思わず書き写させてもらったもの」

「ネコタのとこのカビの塊、喜んで買って行ったところも見たぜ」


 みんな、オウカの雇ったよそ者に興味津々な様子だ。平和でのんびりしたこの村ではこういう刺激が密かな楽しみなのかもしれない。


「親父、親父はいるかぁ!?」


 突然、集会場の外で声が聞こえた。背の低い法師姿の男が立ち上がり外を眺める。


「なんだぁ、倅たちが来てやがらぁ。なにかあったんか?」


 集会場の戸が乱暴に開けられ、法師姿の男たちが数人、奇妙な服装の男を引きずってきた。


「親父、こいつ、うちの秘伝の作り方を盗み見やがったんでさぁ!」

「な、なにっぃ!?」

「ぬわ!? エイタ、お前何でここにおるのじゃ!?」

「よ、よう、オウカ」


 俺は集会場の奥の居間まで引きずられ、畳の上へ座らされた。


「おう、俺の倅たちが言うには、うちの秘伝の作り方を盗み見たらしいじゃねえか、場合によっちゃあ、指の1、2本覚悟してもらうぜ?」


 ええと、すまないが誰か状況を説明してくれないか。なんで俺はここに連れられて指詰めさせられそうになってんだ。


「待て待ておぬしら、エイタが何をしたというのじゃ!?」

「むむ、もしや、こいつが貴様の新しい従者だな、オウカ」

「そうじゃ、来たのは最近じゃからな、盗み見る時間なぞないわ!」

「じゃあ、なんで、醤油や味噌の作る期間や原料を知ってやがんだ!」


 全員の目が俺に注がれる。いや、何で知ってんだって言われても・・・・・・。


「ガキの頃、小学校2年生の夏休みの自由研究で、ばあちゃんと一緒に作ったとしか言えねえな、ちなみに作り方はネットで調べた」


 全員が俺の説明を聞いてポカンとしていた。悪い、俺の説明の仕方が悪かったわ。


「俺はこことは違う世界から来たんだよ。そこには醤油や味噌、オウカたちに作った料理が当たり前のようにあって、当たり前のように作れる世界なんだ。それにさ、例え俺が味噌や醤油を作れたって、まったく同じもんは作れないはずだ」


「だ、だからってよ、それが盗み見てねえ証拠にはならねえ」


 おいおい、悪魔の証明をしろってのか、やってないという証拠は証明できないんだぞ。


「おう、アズキダ、てめえの秘伝ってのはその程度なのか!?」


 突如部屋内にドスのきいた声が響いた。そちらの方を振り返ってみると、腕が丸太のように太いダンディなおじさまが腕を組み胡座をかいていた。立派なひげを蓄え、その右目は眼帯をしている。まるで、某ステルスゲームの蛇のようなおじさまに俺は思わず、「ボス」と叫びたくなる気持だった。絶対、あのおじさま、葉巻が似合うって。


「な、なんだと、タタラ、てめえ俺に文句でもあるってのかい」

「たとえばよう、そこの小僧がてめえの秘伝盗み見たとして、一朝一夕で真似できちまうほど薄っぺらいもんなのかい?」

「な、何が言いてえ……」

「俺の鍛冶も、オウカの酒も、アズキダの醤油や味噌も日々の研鑽で今の形になったんだ。それを素人風情が真似できるかってんだぁ! 出来やしねえだろ!」


 タタラと呼ばれたおじさまの一括で小豆洗いの大将は黙り込んでしまった。


「俺らは矜持持って仕事してんだ、見られて盗まれたって同じもんは作れやしねえから問題ねえ、おめえが言いてえのはそういうことだろ、小僧」


 いきなり話を振られて、俺は思わず頷いた。アズキダと呼ばれた小豆洗いの大将はがっくりと項垂れ、歯を食いしばっている。


「くっ、確かにタタラの言うとおりだ。例え真似されたって、堂々としてりゃあいいんだ。すまねえ! お前さんに迷惑をかけちまった! 謝らせくれぃ!!」


 突然小豆洗いの大将が頭を下げた。俺を連れてきた他の小豆洗いたちも自分の親が頭を下げているのを見て、同じように頭を下げてきた。


「俺はこの世界に来て、醤油や味噌があったことにビックリしましたよ。きっと、何度も試行錯誤や失敗を繰り返したんだろうってさ。だから、もし、他の方が作ったとしても誇っていいんですよ。俺たちが最初に作ったんだって、俺たちが元祖なんだって。あなたたちの醤油や味噌にはそんな思い出が詰まった味がしますよ」


 俺の話を聞いた小豆洗いたちは鼻をすすったり、泣くのを我慢したり、照れくさそうにしていた。

 

 丁度、会合も終わる頃なので、会合の解散と同時に俺も解放された。外ではヨウコが心配そうに待っていた。


「エ、エイタさん、大丈夫だったのですか!?」

「ははは、心配かけちゃったな」


 俺が集会場にいる間、ずっとここで待っていたのか、なんか申し訳ない。買い物も中断してしまったしな。


「エイタって言ったかい、すまねえが店まで足を運んじゃくれねえかい、今回の詫びを入れてえんだ」

「うむ、そうじゃのう、そこまで言われちゃ行くしかないな。ほれ、行くぞ、エイタ」


 いや、何でオウカが仕切ってんだよ。まあ、買い物してないから結局は醤油屋に行くしかないんだけどな。


 店に着くなり、小豆洗い大将は店の奥に入り、桶を2つ抱えてきた。


「こいつは詫びの醤油と味噌でい、持って行ってくれ」


 なんと、醤油と味噌を買うつもりが、タダでいただいてしまったぞ。あ、大豆はちゃんと買いますよ。


「あ、大豆って買えたりとかします?」

「おう、ちょっと待ってろ」


 大将は大豆だけじゃなくて小豆まで付けてくれた。しかもタダだぞ、良いのかこんなに。


「構わねえ、持って行ってくれ」


 そうは言われても、なんか申し訳ない気がする。あ、そういえばこの店って大豆扱っているんだよな。それに結構従業員も多い感じ、もしかするとあれを作ってもらえるかもしれない。


「あの、大豆を扱っているってことは豆腐は作っていますか?」

「ん、なんだ、トウフって?」

 

 あ~、これは知らない感じかな。自分で作るにしても、結構大変だし。それに、この世界に料理を広める第一歩だ。いや、まてよ、豆腐を作るにはにがりが必要だ。にがり、いや、海水があれば何とかなるのだが……。


「よろしかったら豆腐の作り方を教えましょうか? 海水と大豆があれば作れるのですが……」

「……お、お前本気で言ってんのか!?」

「エ、エイタさん、そ、そんな簡単に教えちゃっていいんですか!?」

「いいんだよ、教えちゃって、俺はこの世界に料理を広めたいって思っているんだ。それに豆腐は料理でもあり、材料でもあるんだ。豆腐からさらに新たな料理が生まれるんだよ」


 醤油や味噌と同じだ、新たな材料や調味料が生まれれば、そこからさらに新しいものが生まれる。止めてしまったら、そこまでだ、いつまで経ってもレベルアップしない。

 ……何で豆腐の作り方を知っているかって? これは小学校3年生の自由研究で作ったからな。


「お前さん、エイタって言ったか。た、頼む、エイタ。そのトウフってやつの作り方を教えてくれ!! おい、お前、今すぐ塩屋、いや、薬屋の方が持っている可能性があるな。そこに行って海水貰ってこい!」


 小さな小豆洗いの一人がすぐさま駆け出した。


「明日までには、絶対に用意させるぜ。他に何かやっておくことはあるか?」


 俺は前日にやっておくこと、必要な調理器具や材料を一通り教えた。

 さすがににがり作りは時間がかかるし、ある程度工程を進めてもらった方がいいだろう。


「それでは、明日9時頃にお伺いします」

「おう、待ってるぜ!!」

 

 豆腐が完成すれば、さらに新たな料理が作れるぞ。しかも、得られるのは豆腐だけではない。豆乳、おから、湯葉、さらに豆腐からも、違う食材が作れる。

 そういえば、薬屋に海水を貰いに行くって言っていたな、今日は薬屋にも行く予定だったし、俺も貰うことにしよう。


主人公の小学校の夏休みの自由研究

1年生:糠床作り

2年生:醤油と味噌作り

3年生:にがりと豆腐作り


自由研究の助手:ばあちゃん

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