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糠床作り

 昼食まで時間があるのでヨウコに糠床の作り方を教えることにしよう。

 先程の精米で出た糠だけでは全然足りないが、屋敷にストックがあったのでそれも少しいただいた。


「まずは、糠を乾煎りする」


「わ、分かりましたのです」


 二人して大きな鍋で糠を乾煎りし、器に移す。そこへ水、塩を入れ、よく混ぜ合わせた後、桶へと移す。ある程度貯まったら、平らにして、野菜くずを入れておく。


「なぜ、野菜くずを入れるのですか?」

「これは捨て野菜って言って、糠漬け作りの取っ掛かりみたいな物かな」


 2日おきに野菜を交換し、これを5回位繰り返す。本漬けは早くても1週間後だ。


「よし、一旦はここまでだ、あとは時間をかけて、糠床を使っていくしかない」

「楽しみなのです」


 糠床には時間がかかるが仕方がない。醤油や味噌、酒と同じで、一朝一夕では完成しないのだ。……酒? そ、そうだ!


「オウカ、お前、酒作ってるんだよな」


 俺はオウカの部屋を訪ねる。オウカは部屋の戸を開けたまま書物を読んでいた。そういえば、紙も普通にあるしな、製紙技術や製本技術があるのだろう。と、目的を忘れるところだった。


「米麹、少し分けてくれないか?」


酒作りには欠かせない米麹、あれを糠床に混ぜれば発酵も進むし、旨味もアップする。


「ん? 何に使うんじゃ?」

「もちろん飯の為に」

「良いぞ!」


 あっさり許可をもらえた。オウカは酒蔵へと案内してくれた。が、入り口で待機させられる。オウカ曰く、この先は秘伝の酒蔵で例え従者でも中に入る事は許されないとのこと。非常に気になるが秘伝なら仕方がない。しばらくすると、桶を抱えたオウカが戻ってきた。


「ほれ、こいつじゃ」

「ありがとう、こいつがあれば美味いものが作れる」


 そうだ、昼食はこの米麹を使ってドド肉の塩麹焼きにしよう。

 俺は炊事場に戻ると、米麹を糠床に入れてよく混ぜ合わる。美味い糠床になってくれよ。

 さあ、残りの米麹で塩麹を作る。と言っても米麹と水と塩を合わせるだけだがな。それに、一口大に切ったドド肉を漬け込むだけ。


「これだけでも十分味がある」

「どんな味がするか楽しみなのです」


 昼食まで、時間があるのでヨウコは畑仕事をしに行く様だ。よし、俺も手伝うか。

 畑は丁度家庭菜園位の大きさだ。従者が一人でやるには丁度良い広さ。そろそろ種まきの時期らしい。そういえば、現実世界でも、春前だったよな。


「今日はジャガイモを植えるのです」


 ヨウコが持ってきた竹籠の中には、芽の出たジャガイモと短刀、藁が入っている。

 藁を地面に敷いて、妖石で火を付ける燃え上がった藁はあっという間に灰になってしまった。


「こうやって、ジャガイモを半分に切って、断面に灰を付けてあげるのです。そしたら、この穴に断面を下にして、土を被せるのです」


 なるほど、ばあちゃんの家でジャガイモ掘りはやったことあるけど、植え付けは初めてだからな、勉強になるぜ。

 畑仕事を終えた俺達は昼食の準備をする。


「あの、エイタさん、前にドド肉を焼いた後に味付けに味噌を塗ったのですが、オウカ様に味が塩辛いと言われた事があるのです。味噌はお汁だけしか使えないのですか?」

「いや、そうでもないぞ、やり方が違っただけだ。そうだな…、味噌に酒と砂糖を入れて、漬け込んで置くほうが良いと思うぞ」


 味噌だと塩味しかないので、そこに砂糖の甘味、酒の旨味を加える事によって、味のバランスを整える。味が一つしかないと、その味を強く感じてしまう訳だ。

 

「なるほど……、あ、お肉だけじゃなくて、お野菜にも使えそうなのです」


 色々試してみるのは良いことだな、ヨウコは覚えが早いし、向上心がある、教え甲斐があるってもんだ。

 さて、昼食はドド肉の塩麹焼き、ナスの揚げ浸し、大根の漬物の予定だが、ついでにある調味料を作ろうと思う。


「これから作る調味料は俺が住んでいた世界では伝説と言われた調味料」

「で、伝説なのですか?」

「そう、こいつ一つで全てを支配出来るほどの力を秘めている」

「そ、そんな凄いものを聞いても教えてもらってもいいのですか?」


 一向に構わん。むしろどんどん使うべきだ。さあ、聞くがよい、伝説と呼ばれた調味料の名を。


「その名も、めんつゆだ」


 まず、鍋を用意します。そこに醤油、酒、砂糖を3:3:1の割合でいれる。計量カップなど無いので、完全に目分量だが仕方ない。中火で煮だたせたら、弱火にして、鰹節を入れて3分ほど経ったら、布でこして……。


「完成だ!」

「……え、もう終わりなのです?」


 ええ、終わりです。これが麵つゆです。しかし、侮るなかれ、SNSでは有名な料理研究家が使ったり、TVでCMが流れたりと、それだけ世に浸透している調味料だ。これ一つで、かけ汁、つけ汁、どんぶり、煮物、なんでもござれと、まさに万能調味料。そう、それがめんつゆだ。

 今日のナスの揚げ浸しも、こいつを使うことにしよう。



 本日の昼食

 ごはん、ネギのみそ汁、ドド肉の塩麹焼き、ナスの揚げ浸し、大根の漬物



「「「「いただきます」」」」


「む、これは妾が渡した麹か?」

「ああ、麹に塩と水で合わせて漬け込んだだけだ。シンプルだけど、結構美味いぞ」

「えいたえいた……」


 カナメが箸で俺のことを突いてくる。やめなさい、お行儀が悪い。


「カナメはナスが好きだ……、ナスの漬物は・・・作れるか?」

 

 カナメはナスの煮浸しを気に入ったようだ。ナスの漬物か、よし、夕食はナスの漬物を付けてやるか。


「おお、こいつは美味いのう、妾の米麹がこんな味になるとは」

「米麹は旨味の塊みたいなもんだからな」


 オウカははドドの塩麹焼きを気に入ってくれたようだ。なんか、自分が関わっているものが料理の材料になるとなんか嬉しいよな。


「そうじゃ、昼からは村の会合があるんじゃ」

「会合、村の集まりみたいなもんか?」

「うむ、そうじゃな、村の祭りごとや、他の村との連絡などじゃ」


 ふむ、そういうことは屋敷の主のオウカに任せた方が良いだろうな。俺たちは家事や夕食作り、あと俺は、この村に新たな食材がないか探さないとな。

 あ、そういえば、そろそろ醤油と砂糖が無くなりそうだったな。めんつゆを作るのに大量に消費したしな。待てよ、醤油があるってことは大豆もあるよな、でも、八百屋に大豆は置いていなかった。


「ヨウコ、そろそろ醤油と砂糖が無くなりそうだったな、何処に売っているんだ?」


「お醤油はお醤油屋さんに売っているのです。砂糖はお薬屋さんです」


 醤油が醤油屋に売っているのは分かる。なぜ砂糖がお薬屋さんに売っているのだろうか。まあ、いや、もしかしたら意外なものが見つかるかもしれない。

 よし、とりあえず昼食を食い終わったら醤油屋から向かうとしよう。



 「「「「ごちそうさまでした」」」」


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