服を買おう
「む、何じゃ、妾に払えというのか? やらんぞ。おぬしは妾に借金をしておるのだからな」
速攻で断られた。
いや、俺、お前の従者だぜ。雇い主が従業員を粗末に扱うんじゃない!!
ええい、ブラック企業か!? 労基に訴えてやる。
……いや、労基無えわ、この世界。
仕方がない、プランBだ。
「いやあ、俺も一応従者だろ? 気品のあるオウカの隣に立つのに、着の身着のままじゃ、申し訳ないじゃないか。だからこそ、風呂代は俺にくれたわけだし、それに、料理を作る以上、清潔感は大切だろ?」
直接金をせびるのではなく、相手の自尊心をくすぐる。いわゆる“褒めて落とす”戦法だ。
さて、反応は──
「そ、そうじゃのう……確かにその恰好では妾の格も下がるのう。よかろう、これで見繕うがよい」
マジかよ、金銭1もくれやがった、こいつちょろいわ。
とにかく、これで金が手に入った。とりあえず、この金で替えの服やら下着やらを買うぞ。
たしか、油屋の近くに織物屋があったはずだ。
「お、ここだな」
看板には織物屋「ミクモ」と書いてある。目当ての服は見つかるだろうか。
「あら、いらっしゃいませ」
店の中に入ると店の奥で女性が糸車を回している。顔は丸顔で20代くらいに見える、どこにでもいる様な感じなのだが……。
問題はそこじゃない。
通常の腕のほかに背中からさらに2本、計4本の腕が生えている。
女郎蜘蛛の妖怪か。
……まあ、もう驚くほどでもなくなってきたな、この世界。
「服を探しているんですけど、こんな感じのズボン、いや穿くものとか上着とか」
俺は自分の服を指さして説明する。
すると女郎蜘蛛の店主は、俺の服をまじまじと見つめ──
「え!? 何この生地、どんな糸使ってるのかしら、興味深いわね~」
さすがに、着の身着のままこの世界に来たからな。下はジーパン、上はパーカー、現実世界じゃ普通の服装でも、この世界じゃ珍しい服装だよな。
「特にこれ、この部分よ。何これ、どんな構造してんの!?」
女郎蜘蛛店主が俺の下半身をまじまじと見ている。 そう、ヘソの下あたり。
「丸い金具に、何、この構造、金属部が互いにかみ合って閉じているのね。それと、この腰に巻いてある帯、ギャウル製かしら、しっかりなめされているわね」
「ちょ、ちょっと何してんですか!?」
気づけばジーパンのボタンは外され、ベルトは緩められ、ジッパーは上げ下げされていた。
傍から見れば完全に誤解待ったなしの光景である。
「ごめんごめん、見たことない構造だから興味わいちゃってさ。お願い、構造だけ描かせて」
女郎蜘蛛店主が4つの手で2つの合掌をする。そんな、二つもお願いされちゃ断れねえよ。
「おっと、そんな感じの穿くものだっけ、袴みたいなのかな」
女郎蜘蛛店主が、店内の棚をいくつか物色して、それらしい服を並べてくれる。ふむ、こっちのやつは穿きやすそうだな。お、こっちは腰の部分に紐が付いていて締められるようになっている。
「こっちは西の国の服を参考にしてあたしが作ってみたやつさ」
「西の国?」
「ああ、もしかして、行ってみたことない感じ?」
ええ、まあ、少し前まで日本という国にいたもので。
文字通りここから西にある国。こことは住んでいる者も文化も違うらしい。ちなみに、俺たちが今いる所は東の国というらしい。まあ、現実世界も文化や国の違いはある。異世界だって同じだろうな。
西の国の服は現実世界の中世の服に近い感じがする。よくファンタジー世界の村人が着ている服だ。
──むしろ、こっちの方が着やすいまである。
「いやあ、珍しい服を見ると嬉しくてさ、お詫びに少しまけておいたから」
金銭1枚で、結構な量の服と下着が買えたぞ、ちょっと強引な店主だったけど、いい妖怪だったな。




