水車小屋
朝ごはん。
オウカは気に入ったのか、だし巻き卵を要求してくる。まあ、毎日卵が確保できるしな。あと、ヨウコの練習にもなる。
今日の献立は、だし巻き卵に加えて、鯵に似た魚――アージェの干物。そして昨晩仕込んでおいた大根の皮のパリパリ漬け。味噌汁の具は、大根の葉だ。
「……あ、そろそろお米が無くなりそうなのです」
確かにこれだと、お昼ご飯分しかない。米は……米屋があるのかな?
「そっちの俵に玄米があるのです。それを精米してくるのです」
そういえば、玄米のほうが保存が効くんだったな。食べる直前に精米することで風味も落ちにくい、と昔ばあちゃんが言っていた気がする。
精米される米の匂いって良いよな〜。子供の頃はばあちゃんについて行って、精米機で玄米から白米に変わる所、ワクワクしながら見てたっけな。
「ところで、どこで精米するんだ?」
しかし、ここは異世界だ、妖石はあっても電気は無い、当然、精米機も無いだろう。
「え? 水車で精米するのですよ」
ヨウコは当たり前と言う様に首を傾げた。
……水車。
そういえば、日本も昔はそれで精米していたんだよな。現代機械に慣れすぎてしまったな。
朝食後、俺達は玄米の入った米俵を荷車に積んで……、いや、重たいな。
そういえば一俵って確か60kgだよね。現実世界だと紙の袋で30kgだったはず、それの二倍の重さか。
……いや、これって俺がこの世界に来る前はヨウコは一人で乗せて運んでいたってことか!?
ヨウコの手も借りながら、どうにか荷車へ積み終える。ようやく出発だ。
「おお……あれか!」
ゲームや漫画の中でしか見たことがない水車小屋が見えてきた。川の水の流れを利用して、小屋に付いた水車が力強く回っていた。
小屋の近くに寄ると、この水車小屋だけ壁の一部が金属になっている。
「この水車小屋はカナメちゃんが設計したのですよ」
マジか!?
すげえなカナメ、もう”手先が器用”とかのレベルを超えている。
中へ入ると、大きな臼が鎮座していた。
「この臼の中に玄米を入れるのです」
なるほど、この上の杵で搗いて精米するって訳だな。
俺は臼に玄米を入れ、精米の準備をする。
ん、ちょっと待て、外の水車は回っていたけど、中の軸は回っていない。壊れているのか?
「準備が出来たら、この取っ手を降ろすのです」
ヨウコは壁についている取っ手を下に降ろす。ガコンと歯車がかみ合うような音がした後、歯車が力強くまわりだした。
車軸についた出っ張りで杵が持ち上げられ、引っ掛かりが外れた時に自重で落下する。この動作で玄米が搗かれ、精米するのだ。
ドン。
ドン。
ドン。
「おお、すげえ、水車ってこうなってるのか」
「精米が終わったらこちらでお米と糠に分けるのです」
そこには傾斜して立てかけてある木枠があり、網目の大きさが異なる金網が3~4団ほど重なっている。
見覚えがある。
歴史の資料か何かで見た――そう、確か千石通しだ。
なるほど、米は網の目を落ちず、糠だけ下に落ちるようになっているんだな。
「この糠は畑に撒くのです。お野菜に張りが出て、美味しく育つのです」
屋敷の隣に小さな畑があったけど、あれもオウカの屋敷の敷地なんだな。野菜の種とか売っているのかな?
糠か、糠漬け食いたいな。あの匂い、味、あれだけでご飯3杯は余裕だね。糠床の作り方は小学生の時の自由研究でばあちゃんの手を借りて作ったことがある。さすがに担任にドン引きされたけどね。
「ヨウコ、その糠、俺にも分けてくれないか?」
「構わないのですが、何使うのですか?」
「そりゃあもちろん、糠漬けを作るためさ!」
俺は自信満々に親指を立てて見せたがヨウコは首を傾げるだけだった。
待ってろよ、最高に美味い糠漬けを食わせてやるぜ。
いや、その前に服を買おう。




