異世界のお風呂事情
そういえば、昨日は忙しさにかまけて風呂のことを聞きそびれていたな。
昨日は入っていない。さすがにそろそろ限界だ。なにせ料理人たるもの、清潔感は命だ。
「む、屋敷に風呂はあるのかじゃと?」
「あるにはあるのですが……」
「何か問題でもあるのか?」
どうやら屋敷にも風呂自体はあるらしいが、それは五右衛門風呂のような簡素なものらしく、狭い上に使うと逆に疲れるという代物らしい。結果として、村の住民たちは皆そろって湯屋を利用しているという。
「ほれ、こいつが1か月分の風呂代じゃ」
そう言ってオウカが差し出した巾着を受け取る。中には銀貫銭が一枚、それに銀銭が四枚。
どうやらこの世界では、従者には給与とは別に風呂代を支給するのが常識らしい。
なんだ、結構しっかりとした契約なんだな。
……前言撤回、借金のことは忘れてないからな。
俺は手拭いと桶をもって早速銭湯へ向かうことにした。
屋敷から少し歩いたところにある大きめの建物で、屋根の煙突から煙がモクモクと上がっている。
入り口を潜ると玄関があり、そこで履き物を脱ぐ。周りは草履や下駄、草鞋などが並んでいる中、現実世界のスニーカーが置かれる。
靴を脱いでからすぐの所に番台がいて、そこで銭を払って、左右に分かれている暖簾をくぐるだけだ。
番台には、ざんぎり頭で耳が尖り、やたらと舌の長い男が座っていた。
なるほど、あの妖怪は垢嘗めか。
「いらっしゃい、一風呂銅3枚だよ」
入浴代一回で銅3枚か、中々にリーズナブルだな。
俺は巾着から銀銭を1枚渡し、銅貫銭1枚と銅銭2枚のお釣りをもらい、異世界文字で男と書かれた暖簾をくぐる。
中には荷物棚が並び、すでに何体かの妖怪たちが利用している。
服を脱ぎ、手拭いと桶を持って浴室へ向かうと、そこは思った以上に整っていた。区画も分かれており、現実世界の銭湯と大差ない。
「おお、結構広いんだな」
壁にもちゃんと注意書きまで書いてあるぞ。なになに、ちゃんと体を洗ってから入浴すること。
ちなみに体を洗うのも、髪を洗うのも、基本石鹸だ。石鹸は湯屋の浴室においてあるので自由に使っていいとのこと。
ちなみに、女性陣はみんな自分専用の洗髪剤等を使うことが多いらしい。
俺は体と髪を洗って風呂にゆっくりと浸かる。
「ふぅ~、生き返る〜」
風呂の中で軽く背伸びをする。
現実世界ではない、異世界の風呂だ。
と言っても、現実世界にもあるような大衆浴場だが、もちろん周りは妖怪だらけ。肌の色が赤かったり、緑色だったり、鱗が付いていたり、あ、普通の肌もいる。
「そういえば、ずっと同じ服、着ているな。流石に着替えないとな」
着の身着のままで異世界に来たので、替えの服などない一張羅だ
料理人たるもの清潔感は大切だ、そういえば、織物屋なんてのもあったが……。
「この村の妖怪たち、みんな着物ばっかりなんだよな」
明日の買い物がてら見に行くか。
いや、しかし、金がない。風呂代もらったついでに頼んどくべきだったな。
気が進まないがオウカに頼んでみるか。
しかし、異世界に来てこんなちゃんとした風呂に入れるとはな。
異世界の風呂ってあまり普及していないとか、お金持ちしか入らないってイメージだったからな。
俺はしばらく湯に浸かったあと、名残惜しさを感じつつも湯屋を後にした。
外に出ると少し肌寒い。体が冷えぬうちに、さっさと床に就くとしよう。




