第44話 隼斗と龍馬、本気の闘い
「では――改めて、始めるとしよう」
静かに告げる龍馬に、隼斗は口元を吊り上げた。
「おうよ!」
次の瞬間、二人は同時に構えを取る。
半身に開いた体勢――わずかな重心の揺れすら見逃さぬ、緊張の極地。
そして――
先に動いたのは、龍馬だった。
――消えた。
隼斗の視界から、龍馬の姿が掻き消える。風の流れすら残さぬ、異常な加速。
(どこだ!?)
思考が追いつくよりも早く。
次の瞬間には、背後に“気配”が生まれていた。
来る!
龍馬は、すでに隼斗の背後を取っていた。人の域を逸した速度で間合いを詰め、そのまま右足を鋭く振り上げる。
狙いは――右の側頭部。
「あぶなっ!?」
反射的に、隼斗は右腕を跳ね上げた。
――衝撃。
骨に響く重い一撃を、かろうじて受け止める。
だが、終わらない。
龍馬は着地と同時に、間髪入れず左足を振り抜いた。今度は反対側――左の側頭部を狙う、連撃。
(速え!)
隼斗は歯を食いしばり、その場に沈み込むようにしゃがむ。
風を裂く蹴りが、髪をかすめて通り過ぎた。
だが、その瞬間。
「――っ!?」
頭上で、気配が止まる。
見上げる間もなく――
龍馬は宙で動きを止め、そのまま踵を振り下ろした。
一直線に叩き落とされる、重力を乗せた一撃。
「ちっ!」
隼斗は前方へと飛び込み、そのまま転がる。
背後で、畳が砕けるような鈍い音が響いた。
転がりながら距離を取り、立ち上がる。
「あぶねえ、あぶねえ……」
軽く息を吐き、額の汗を拭う。
「少しでも避けるのが遅かったら、マジで終わってたぜ……」
対する龍馬は、静かに構えを解かぬまま言った。
「私の本気の速度に追いつくとは……。君は、想像以上の武術家のようだ」
「へえ……」
隼斗は笑う。
「爺以外にも、こんな化物がいるとは思わなかったぜ」
その言葉に、龍馬はわずかに目を細めた。
「化物、か……」
そして、淡々と返す。
「それを言うなら――君も同じではないのかな?」
「はっ……。違いねえな」
隼斗の笑みが、獰猛に歪む。
その瞬間。
今度は――
隼斗の姿が、視界から消えた。




