第40話 特別のルール
「重久様との話は、終わったかな?」
静寂を切り裂くように、至宝院龍馬がゆっくりと目を開いた。その瞳が、まっすぐに隼斗を射抜く。
「ああ、待たせて悪かったな」
軽く肩を鳴らしながら、隼斗は応じる。
龍馬は一歩も動かぬまま、淡々と言葉を続けた。
「一つ、言っておこう。重久様が直接罰を下さぬからといって、安心しないことだ」
わずかに間を置き。
「何故なら……。私が、相手だからだ。私は、強い」
静かでありながら、揺るぎない断言。その言葉には、誇示ではなく事実を述べるだけの冷たさがあった。
「へえ……」
隼斗は口の端を吊り上げる。
「ずいぶんと自信満々じゃねえか。いいぜ、その“強さ”がどれほどのもんか、見せてもらおうか」
言い終えると同時に、腰を落とし、隼斗は構えを取る。畳を踏みしめる足に、じわりと力がこもる。
「いいだろう」
龍馬の声音は変わらない。
「だがその前に――君の実力、確かめさせてもらう」
「上等だ。たっぷり見せてやるよ」
言葉が途切れ、再び静寂が訪れる。二人の間に流れる空気は、先ほどまでとは比べものにならないほど鋭く、張り詰めていた。
――対峙。
わずかな呼吸すら、互いの間合いを測る材料となる。
その時。
「両者、よく聞け」
重久の低く響く声が、場を支配した。
「これは、通常の試合ではない。ゆえに――至宝院の小僧よ。隼斗が完全に倒れた時点で、お主の勝ち」
一拍置き、視線が隼斗へと移る。
「隼斗。至宝院の小僧が片膝をついたならば、お主の勝ちじゃ。よいな?」
「いいぜ」
「承知いたしました」
二人の声が、ほぼ同時に重なる。
そして――
「では……始めい!」
重久の一喝が、雷鳴のように道場へ轟いた。




