第39話 隼斗と龍馬、対峙する
天道道場の中央――張り詰めた空気のただ中に、二つの影が向かい合っていた。
天道隼斗と、至宝院龍馬。
隼斗はすでに道着へと身を包み、対する龍馬は白の学ランのまま、微動だにせず立っている。静寂が、畳の上に重く沈んでいた。この状況が、未だに現実味を帯びない。隼斗はわずかに眉をひそめ、胸の内で問いを繰り返す。
何故、こうなった。
もっとも、その答えはすぐに見つかる。結局のところ、すべては自分の蒔いた種。自業自得に他ならないのだが……。
「隼斗よ」
低く、よく通る声が場を揺らした。視線を向ければ、畳の上にあぐらをかいた重久が、こちらを見据えている。
「至宝院の小僧と闘い、もしあやつが片膝をつくようなことがあれば――麗奈の件は不問にしてやろう」
一瞬、言葉の意味が飲み込めず、隼斗は目を瞬かせた。
「……え、マジで?」
「わしは、一度口にしたことは覆さん」
静かだが、揺るぎのない断言だった。
「あとでやっぱ嘘でした、は無しだからな」
「そのような真似はせん」
重久は一拍置き、わずかに目を細める。
「……だが隼斗よ。あやつは強い。日頃の鍛錬を怠っておるお主では、そう容易く勝てる相手ではないと思え」
その言葉に、隼斗は肩をすくめ、軽く息を吐いた。
「へえ……。こいつ、そんなに強いのか?」
後ろ手に手を組み、目を閉じたまま佇む龍馬へと視線を送る。微塵の隙も感じさせないその姿は、まるで一本の槍のように研ぎ澄まされていた。
「至宝院の小僧は、至宝院流護身術の使い手じゃ。中学・高校の武術大会でも、一度も負けてはおらん」
「……そりゃすげえな」
隼斗は小さく口笛を吹きかけて、やめた。
「ってことは、麗奈と同じくらいか……。いや、もしかしたらそれ以上か」
言い終えると同時に、口元が自然と吊り上がる。
胸の奥で、何かがじわりと熱を帯びていく。久しく感じていなかった感覚。強者を前にしたときだけ芽吹く、高揚。
「いいね……」
誰に聞かせるでもなく、隼斗は呟いた。
重久でも麗奈でもない、未知の強敵。その存在が、彼の血を静かに、しかし確実に沸き立たせていく。
張り詰めた空気の中で――戦いの火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。




