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第38話 龍馬、懇願する

「隼斗よ、お主……。毎晩、麗奈の部屋へ忍び込んでおるそうじゃな?」


 低く響く声に、隼斗の肩がびくりと震えた。


「えっ!? い、いや……その……」


 言葉は喉の奥で絡まり、うまく出てこない。額にはじわりと汗が滲み、背筋を冷たいものが伝う。


「今朝の朝稽古でな、麗奈がそう言うておったわ」


(マジかよ! 最悪だ!)


 胸の内で叫びながらも、隼斗はどう返せばよいか分からず、ただ視線を泳がせる。


「まさかとは思うが……よもや麗奈を悲しませるような真似は、しておらぬだろうな?」


 重久の言葉は、静かでありながら鋭く、まるで刃のように隼斗の胸へ突き刺さった。


「あっ、してない! 本当にしてないって! 誓う、絶対にそんなことは――!」


 必死の弁明。しかしその焦りは、かえって疑念を深めるばかりだった。


「……そうか。だとしてもじゃ」


 重久はゆっくりと一歩踏み出す。


「許される行いではない。それに朝稽古をサボるとは何事か! 今から、わしが直々にお灸を据えてやるから覚悟せい!」


 逃げ場はない。隼斗が思わず身を引いた、その時だった。


「重久様、少々お待ち下さい」


 静かに差し込まれた声に、場の空気がわずかに揺れる。


 これまで一歩引いて二人のやり取りを見守っていた至宝院龍馬が、ゆっくりと口を開いたのだ。


「何じゃ、至宝院の小僧」


 重久は鋭い視線を向ける。


「部外者の身で口を挟むのは承知の上。しかし――」


 龍馬はその視線を真正面から受け止め、淡々と続けた。


「そこにいる天道隼斗にお灸を据える役目、どうかこの私にお任せいただきたい」


 言い終えると同時に、深々と頭を下げる。その所作に一切の迷いはなかった。


「ふむ……。身内の問題に、なぜお主が首を突っ込む」


「理由は単純です」


 龍馬は顔を上げ、静かに言い放つ。


「天道麗奈は、武の道を極めんとする立派な武術家。私は彼女を深く尊敬しています。その天道麗奈に対し、兄でありながら非道を働くなど――言語道断」


 一拍置き、さらに言葉に力を込めた。


「ゆえに、この手で天罰を下したいと考えました」


 その言葉を聞いた重久は、腕を組み、しばし沈黙する。


 重く張り詰めた空気の中、やがて――


「なるほどのう……それも一興かもしれぬな」


 わずかに口元を緩めた。


「よかろう。好きにせい」


「ありがとうございます」


 龍馬は再び深く頭を下げた。


 その背後で、隼斗は静かに顔を引きつらせていた。逃れられぬ運命を前にして。


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