奇跡の代償と忍び寄る気配
幸運は、すぐに分かった。
朝、目を覚ますと――
足の感覚がまるで違っていた。
あれほど痛くて、動かすことすら難しかったのに、
まるで何事もなかったかのように、元に戻っている。
「え……?」
戸惑いながら立ち上がる。
普通に歩ける。
信じられない。
そしてふと、机の上に目を向けると――
赤い小さな花が、いくつも飾られていた。
「なにこれ……?」
私はすぐにアンナを呼びに行った。
⸻
アンナは、走ってきた私を見て目を見開いた。
「お、お嬢様……!?」
その反応が少し面白くて、思わず笑いそうになる。
「いいから来て、説明するから」
部屋に連れて戻り、状況を話す。
アンナは花を見て、少し驚いたように息をのんだ。
「……これは、アキレアです」
「アキレスに似てるね」
「アキレア、です」
ぴしゃりと訂正される。
「この花には、治癒や勇気の意味が込められています」
「じゃあ……足が治ったのって、この花のおかげ?」
「正直、私も信じがたいですが……昨日の小鳥が関係しているのかもしれません」
「小鳥が?」
「はい。大空を自由に飛び回る鳥は、昔から“天”と“地上”を行き来できる特別な存在だとされています」
「すご……」
「もしかしたら、あの小鳥の持ち主は……女神様かもしれませんね」
「……あり得るかも」
だって、実際に足は治っているのだから。
⸻
その日、私が普通に歩き回ったことで、屋敷中は大騒ぎになった。
結局、反省も兼ねて大人しく部屋で過ごすことになる。
けれど――結果的に怪我は完治。
予定よりも早く、メイドの仕事に復帰できることになった。
⸻
それから、小鳥のことが気になり、
羽についていた紋章をアンナや父の側近・ジルに聞いてみた。
しかし――
「見たことがない紋章ですね」
誰も知らなかった。
結局、それ以上は分からず、調べるのは断念することにした。
⸻
明日から、仕事復帰。
側妃様とリーゼ様の件も、なんとかしないといけない。
もちろん、取引のことも。
「やること多すぎでしょ……」
思わず苦笑する。
でも――
ずっと部屋にいた分、楽しみの方が大きかった。
⸻
その日はすぐに眠りについた。
そして翌朝――
ワクワクしながら仕事場へ向かう。
しかし。
門の前に立っていたのは――メイド長だった。
「すみません!」
思わず謝ると、メイド長はじっとこちらを見て言った。
「遅い。仕事は山ほど溜まっているぞ」
そして、にやりと笑う。
「それと……今回の件、じっくり聞かせてもらおうか」
「……え?」
もしかして。
「私……バレてる?」
さっきまでのワクワクは、一気に消えた。
代わりに込み上げてくるのは――
嫌な予感と、少しの恐怖だった。




