届かない手紙 ベネディクト side
(仮)第一王女誘拐未遂事件――
それが起きてから数日。
城内は騒然とし、警備は強化され、使用人たちの動きもどこか張り詰めていた。
そして私は――
増え続ける業務に、頭を抱えていた。
「……分からないとは、どういうことだ」
低く問いかける。
目の前の男――ユリウスは、珍しく言葉に詰まった。
「申し訳ありません。手は尽くしておりますが……該当する人物の特定に至っておりません」
「続けろ」
「リーゼ様の侍女の証言では、“メイド服を着た見知らぬ女”とのことです。しかし――」
一拍置く。
「メイド長に確認したところ、そのような人物は城内には存在しないと。取り合ってもらえず、追い出されました」
「……見たことがない、か」
ならば外部犯。
だが――
「本当に誘拐未遂だったのか?」
「判断が難しいところです。本来であればリーゼ様に直接お聞きするのが早いのですが……」
ユリウスはわずかに眉を寄せる。
「側妃様の警戒が厳しく、近づけません」
「さすがにお前でも、母上には通じぬか」
「面目ありません」
「いや、構わん」
むしろ当然だ。
あの人間の執念は、常軌を逸している。
「しかし、ディランだけを動かせば逆効果だろうな」
「同感です。では、どうされますか?」
ユリウスの問いに、私は少しだけ考え――口を開いた。
「フェリシアだ」
「……やはり、そうなりますか」
「あぁ。母上も言っていた。今回の件、フェリシアの仕業だとな」
「根拠は?」
「ない。ただ、私を揺さぶるための方便だ」
くだらない。
だが、無視すれば本当に実行しかねない。
「何か一つでも報告しなければ、側妃様は納得されません。それに――」
ユリウスがため息混じりに言う。
「殿下の業務も、私の業務も増え続けます」
「……お前が心配しているのは、自分の仕事量だろう」
「そう見えましたか?」
「悪くはない」
軽く言って、私は視線を落とした。
「フェリシアが動けば、あの男も動く」
「ディラン様、ですか」
「あぁ」
――使えるものは、使う。
それだけだ。
「手紙を書く。届けろ」
「かしこまりました」
ユリウスに一通の手紙を渡す。
内容は単純だ。
来なければ、終わり。
来れば――利用する。
(……あいつなら、すぐ来るだろう)
そう思っていた。
だが――
三日経っても、フェリシアは現れなかった。




