文字が読めないという問題
骨折してから、約二週間が経った。
今は、少しだけ歩けるようになっている。
カルシウム的なものを食べたおかげかしら。
それにしても――片足固定のベッド生活は、地獄だった。
ネットもない。娯楽もない。
ただひたすら、退屈。
けれど、取引のためにお金を稼ぐ方法を考えていたおかげで、気持ちだけは保てていた。
料理の方法や販売の仕方を、アンナと一緒に手探りで考える日々。
そんな中――動きがあったのは、二週間後だった。
◇
「お嬢様、お手紙が届いております」
アンナが嬉しそうに差し出してくる。
私は受け取り――固まった。
「……お嬢様?」
「読めない」
「えっ」
アンナの表情が、一瞬で変わる。
驚きというより――引いている。
その瞬間、私は重大なことに気づいた。
この世界の文字、読めない。
そういえば、今まで一度も読んだことがなかった。
会話はできるから問題ないと思っていたけど――
そもそも、文字が違う。
見たこともない記号みたいなものばかりだ。
「お嬢様……料理より先に、文字を覚えるべきです」
「いや、そのうち記憶が戻ったら読めるかなって……」
「戻らなかったらどうするんですか!」
アンナがぐっと身を乗り出す。
「私が教えます! 読み書き!」
「ありがとう……」
なんでそんなにやる気なのか分からないけど、助かるのは確かだ。
「それで、この手紙……誰から?」
恐る恐る聞く。
嫌な予感しかしない。
「ベネディクト様からです」
「え?」
心当たりが、多すぎる。
むしろ、ありすぎて分からない。
「骨折の件をお聞きになったのかもしれませんね。手紙を送られるなんて珍しいですし」
「……ねぇアンナ、読んでくれる?」
頼んだ瞬間、アンナは全力で首を横に振った。
「無理です!」
「なんで!?」
「フェリシア様宛のお手紙を読むなんて、恐れ多すぎます!」
「私がいいって言ってるのに」
「それでも無理です! ですので――ご自身で読んでください!」
「いや読めないって言ってるでしょ!?」
「サポートします!」
こうして――
アンナ先生による、スパルタ文字講座が始まった。
ベネディクト様からの手紙。
……気になる。
けど今は、とにかく読むしかない。
私はこのとき、まだ知らなかった。
――この手紙を、すぐに読まなかったことを。
後で、心の底から後悔することになるなんて。




