動けない私と最後の手段
今、私はアンナを慰めている。
「なんで怪我してるんですかぁ……」
「どうして連絡してくれなかったんですかぁ……」
グス……ウッ……
よしよし、と背中を撫でる。
「いやぁ、階段で躓いて足をやったなんて、恥ずかしいじゃない」
「恥ずかしくないです! お嬢様、失礼します!」
「えっ――ちょっ」
気づいたときには、アンナにお姫様抱っこされていた。
「ちょっと! 周りに見られたらどうするのよ!」
「では一生ここに座って、一夜を迎えたいですか?」
「迎えたくない……」
「なら大人しくしていてください」
そのまま馬車に乗せられ、重々しい空気のまま屋敷へ戻った。
扉が開くと、すぐに母が駆け寄ってくる。
「フェリシア、大丈夫? 誰がやったの? お母さんが言いに行ってあげるから」
それはダメダメ!
「階段で躓いて……」
「まぁ、運動できなさそうだったものね」
……なんかバカにされてる気がする。
「お医者様が待ってるわ。行くわよ」
「うわっ――」
次は母にお姫様抱っこされた。
なんだか、前にも感じたことのある温かさだった。
――きっと気のせいだ。
私は大人しくされるがままに運ばれた。
一階の部屋に通され、ソファに座らされる。
そこには女性の医師がいた。
「失礼します。触れますね」
次の瞬間――
「痛いっ!!」
思わず声が出る。
「何するんですか!?」
「軽く触れただけですが……」
「え?」
「腫れもありますし……骨折ですね」
――は?
「エレノア様。残念ながら、お嬢様の左足は中ほどで完全に折れております」
「まぁ……フェリシア、どうしたの? 固まって」
「これが……骨折……?」
「もしかして、分かっていなかったのですか?」
分かるわけないでしょ……。
「フェリシア、そんなに痛かったのね……先生、治るのでしょうか?」
「ご安心ください。数ヶ月の固定と安静で、元通りに歩けるようになります」
「数ヶ月……」
頭が真っ白になる。
母は手当てを頼み、部屋を出ていった。
――終わった。
取引の期限まで働けない。
どうやって稼ぐの?
足も痛い。心も痛い。頭も痛い。
……もう、無理。
気づけばそのまま眠っていた。
◇
目を覚ますと、ベッドの上だった。
足に違和感を覚え、布団をめくる。
「……なにこれ」
足は固く固定されていた。
「アンナ」
呼ぶと、すぐに入ってくる。
「治療です。しばらくは動けません」
「どれくらい?」
「一、二週間は安静。その後も完全に元通りになるまで一、二ヶ月ほどかかるそうです」
「え……」
「ですので、仕事は断っておきました」
「どうやって?」
「骨折されたと、そのままお伝えしました」
まぁ、そうなるわよね……。
「どうしよう……」
「取引のことですか?」
「ええ」
「旦那様は、もうやめろと仰っていました。婚約を進めるようにと」
「……でも、やめない」
私ははっきりと言った。
「骨折したくらいで諦めるなんて、嫌よ」
「お嬢様……」
「アンナ」
「はい」
「私と、一緒に稼がない?」
「……はい?」
「料理を売るの」
「料理を……?」
「あそこで働いて思ったの。食事の格差がひどすぎる」
あの食堂の光景が頭に浮かぶ。
「だったら、作ればいい。困ってる人に売ればいい」
「国札までいけるでしょうか……?」
「分からない。でも、やるしかない」
私はアンナを見た。
「私が教える。アンナならできる」
「……分かりました。お手伝いします」
「よし!」
思わず拳を握る。
「まずはメニューを考えないとね!」
――その頃の私は、まだ気づいていなかった。
城で起きた、あの出来事の重大さに。




