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処刑寸前の悪役令嬢ですが、中身が不思議ちゃんオタクなので推しを幸せにすることにしました  作者: 花の香り
アニメの最終回

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3/42

ようこそ、絶望の地下牢へ

 ――寒い。


 ゆっくりと意識が浮かび上がる。


 次の瞬間、肌を刺すような冷気が全身を襲った。


「……っ、さむ……」


 石の硬さが背中に食い込んでいる。


 体が、信じられないほど重い。


 まるで何日も寝ていなかったみたいに、全身がバキバキに固まっていた。


 ゆっくり目を開ける。


「……フェリシア様?」


 白い世界は、どこにもなかった。


「フェリシア様がいない……! なんで!? それにここ、どこですかぁ!?」


 慌てて起き上がる。


 視界に入ったのは――。


 湿った石の床。

 カビ臭い空気。

 鉄格子のはまった重たい扉。


 どう見ても。


「……罪人のお部屋では?」


 沈黙。


「……夢、ですよね?」


 自分の頬を思いきりつねる。


「痛い! 痛いですぅ!!」


 現実だった。


 つまり私は――異世界転移成功(?)らしい。


 いや成功なのかこれは。


 状況を整理しようと頭を回そうとした瞬間。


 ――ぐぅぅぅぅぅ……。


 お腹が盛大に鳴った。


「あっ」


 そういえば昨日、日本でお菓子しか食べていない。


 推しの最終回に情緒を破壊され、夕飯を忘れていたのだった。


「これはまずいです……空腹は思考力を奪います……」


 冷静な分析。


 つまり今の私は。


 転生直後+極度の空腹=ポンコツ状態。


「すみませーん!!」


 私は鉄格子に駆け寄った。


「誰かいませんか!? お腹空いたので何かください! あと可能ならここから出してください!!」


 ダメ元だった。


 でも――。


 暗闇の奥から、足音が響いた。


(えっ、本当に来た!? 優しい世界!?)


「助かりましたー!」


 明かりが近づく。


 そして現れた人物を見た瞬間、私は息を止めた。


 整った顔立ち。

 氷のような灰色の瞳。

 近寄りがたい威圧感。


 ――知っている。


 この人を、私は知っている。


(え、待って……)


 でも口は先に動いた。


「すみません! 私、間違えて連れてこられたみたいなんです! ここから出していただけませんか?」


 沈黙。


 次の瞬間。


 その美しい顔が、露骨に歪んだ。


 まるで――汚れたものを見るように。


「今更演技か」


 低く、冷たい声。


「反省もせず助けを求めるとは……愚かだな」


「えっ、演技? 愚か……?」


 思考が止まる。


 え、私なにした?


 締め切り? 無断欠勤? 課金しすぎ?


 とりあえず謝ろう。


「ごめんなさい、私、間違ってました」


「……は?」


 男は明らかに困惑した顔をした。


「反省したので助けてください」


「……反省などしていないだろう。もういい。連れて行け」


 短い命令。


 背後の騎士たちが動き、牢の鍵が開いた。


「わわっ!? ちょ、ちょっと待ってください!?」


 両腕をがっしり掴まれる。


「ゆっくり歩きましょう!? 急ぐと転びますよぉ!」


 前を歩く彼は、一度も振り返らない。


「昨日のことすら忘れたのか」


 吐き捨てるような声。


「……覚えてますよ?」


 当然だ。


 推しと会えたんだから。


 でも。


(……昨日?)


 違和感が胸に引っかかる。


 地下牢。

 拘束。

 冷たい王子。


 そして――。


 灰色の瞳。


(……ベネディクト様?)


 背筋が凍った。


 ここは。


 この状況は。


 アニメ最終回の――。


 考えがまとまる前に、視界が揺れる。


 空腹と恐怖で頭がくらくらする。


「痛い……そんなに強く握らないでください……」


 力が抜ける。


 遠くで誰かの叫び声が聞こえた。


「フェリシア! フェリシア!!」


 ……え?


 なんで。


 どうして。


 私に向かって。


 推しの名前を呼んでいるの?


 意識が沈む直前、最後に浮かんだ疑問。


 ――そのとき私はまだ。


 自分が“処刑されるはずだった悪役令嬢フェリシア”として扱われていることを、知らなかった。

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― 新着の感想 ―
確かに鏡見ないと誰かわからないですよね、ご都合主義的じゃなくていいですね。
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