はじめての城勤めは甘くない
エミ先輩について行くと、同じ服を着た人たちが数人いる場所へ案内された。
「ここは使われた布が集まる場所よ。
まずあなたにやってもらうのは、洗濯の“洗う作業”ね」
「はい」
「一連の流れを見せるから覚えて」
(メモないし……記憶に集中)
⸻
「まず、使用人が布をここに集めるの。
衣服はまた別で説明するわね。今はふきんから」
エミ先輩は丁寧に説明してくれる。
(思ったより優しい人かも……)
「まず仕分け。汚れのレベルと生地で分けるの」
⸻
「綺麗なものから洗うから、このカゴ持って」
「はい!」
エミ先輩の後について外へ出る。
そこには、水を溜めた長い槽があり、両側に使用人たちが並んでいた。
⸻
「一回やるから見てなさい」
エミ先輩が布を水につけると、周りも一斉に動き出す。
慣れた手つきで、どんどん汚れが落ちていく。
「やってみなさい」
私も真似してみる。
(むずかしい……)
前の世界なら、洗濯機に入れてボタン押すだけだったのに。
(家電ってすごかったんだな……)
⸻
「……まあまあね」
洗濯は単純作業の繰り返しだった。
綺麗な布から順番に洗い、途中で水を替え、
最後は汚れのひどいものへ。
⸻
終わると、今度は干す作業。
こちらは特に決まりはなく、少し安心した。
⸻
その後、休憩時間になり、食堂へ向かう。
(食堂!?)
一気にテンションが上がる。
「嬉しそうね」
「すみません、顔に出てしまって……」
「まあね。食べ物は貴重だから分かるわ」
エミ先輩はそう言いながら続ける。
「食事は、職位で内容が変わるの。説明はないけどね」
⸻
エミ先輩の真似をして受け取る。
同じ料理だった。
だが、隣の人は違うメニューだった。
⸻
「あの……好きな物は選べないんですか?」
「無理よ。あの子たちは下の子。料理で分かるでしょ」
(うわ……)
「今は私と同じだけど、次からは違うからね」
「ですよねー……」
一気に疲れが押し寄せた。
⸻
席に座り、黙々と食べる。
その時――
廊下の方から賑やかな声が聞こえた。
食堂に入ってきた人物を見て、思わず声が漏れる。
「アンナ……」
「ちょっと!」
隣でエミ先輩が反応する。
⸻
「あー!エミー!久しぶり!」
「何しに来たのよ」
二人は知り合いらしい。
「この子の紹介で来たら、先生が挨拶してきなさいって」
エミ先輩が私を見る。
「……は?この子が?」
⸻
「サユ、元気にしてる?」
「してます」
(……なんかアンナ、いつもと違う)
⸻
「あのお嬢様に、とうとう追い出されたの?」
「は?」
「だって今日いないじゃない」
(……それ、私だよね)
⸻
「お嬢様は近くにいらっしゃいます。私が離れるわけないでしょう」
空気が一気に張り詰める。
⸻
「サユ、そろそろ時間だから帰りましょう」
「ちょっと!」
アンナが私の手を引く。
「待ちなさいよ!」
「いいのよ。どうせこれから嫌でも会うんだから」
⸻
初日から上手くいくと思っていた。
でも、不安しか残らなかった。
⸻
アンナに連れられて城を出て、家へ向かう。
道中、会話はなかった。
アンナは機嫌が悪そうで、私は聞けなかった。
⸻
家に着くと、母に質問攻めにあう。
「どうだった?」「何したの?」「怪我は?」
戸惑いながら答えると、満足したのか去っていった。
⸻
部屋に戻り、そのまま床に倒れ込む。
思っていた以上に疲れていたらしい。
そのまま眠ってしまった。
⸻
目が覚めると、ベッドの上だった。
外はもう深夜。
⸻
アンナを呼び、夕食を取る。
両親はいない。
一人だった。
⸻
アンナと食べようとしたが、断られた。
(……まあ、フェリシアはしないよね)
⸻
一人で食べる。
静かだ。
前の世界では、テレビを見ながら食べたり、
学校では賑やかだったのに。
今は何もない。
⸻
転生して初めて、“一人の寂しさ”を感じた。
(フェリシアも……こんな気持ちだったのかな)
⸻
その後、部屋に戻り、明日の準備をして眠る。
⸻
明日から本格的な仕事。
ミスしなければいいだけ。
そう思っていた。
⸻
――この時はまだ。
やらかすなんて、思ってもいなかった。




