はじめての城勤め
建物に入ると、数人の人が慌ただしく動いていた。
外とは違い、明らかに忙しそうだ。
「それ洗って、次出して!」
「早くしないと間に合わないわよ!」
洗濯物を抱えている人。
掃除道具を持って走っている人。
その光景に、思わず圧倒される。
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「エミさん」
先生が声をかける。
「メイド長!」
洗濯物を持っていた女性が振り返った。
「今日は応接間、空いてるかしら?」
「はい、空いています」
エミと呼ばれた女性は、先生の後に私をじっと見る。
私は軽くお辞儀をした。
「初めまして、サユと申します」
「エミさん、今日から働く子よ」
その一言で、エミの表情がぱっと変わる。
「初めまして、エミです。よろしくね」
「よろしくお願いします」
(……なんだか、少し不安になってきた)
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「応接間を借りるから、通さないでね」
「かしこまりました」
先生について行くと、応接間へ案内された。
部屋は綺麗に清掃され、整えられている。
「どこでもいいから座って待っててくれる?」
言われるがまま、ソファーに腰掛ける。
(バックヤードじゃないんだ……)
想像と違う空間に、少し緊張してきた。
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先生は棚から資料を取り、向かいのソファーに座る。
「改めて自己紹介させてください。
私はここでメイド長をしている、イーファです。よろしくね」
「サユです。よろしくお願いいたします」
「アンナから聞いたけど、料理が得意なのよね。掃除は?」
「掃除、洗濯、料理はある程度できます」
「働ける期間は?」
(……これ、面接?)
「長く働けたらと考えています」
「助かるわ」
「勤務経験は?」
「ありません。学業に専念していました」
「どうしてこの仕事を選んだの?」
完全に面接だった。
「以前からメイドの仕事に憧れていて……
アンナに相談して紹介してもらいました」
「……問題ないわ」
「はい?」
「ごめんなさいね。採用審査みたいで緊張させたわね」
イーファは少し柔らかく笑う。
「ここは王都だから、人をちゃんと見ないといけないの。
王子目当てや、窃盗目的の人も来るから」
「……なるほど」
「アンナの紹介でも、簡単には通せないのよ」
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「呼び方はどうしましょう?」
「ここではメイド長とか、イーファ様って呼ばれてるわ。好きに呼んで」
「では……メイド長で」
(店長みたいな感じね)
少し安心した。
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メイド長は資料を机に置く。
「城で働くのは初めてよね。説明するわ」
図面を広げてくれた。
(助かる……)
「まず、さっき通った門は“城北”。
ここは使用人が主に使う門よ」
「城北……」
「城南は正門。高貴な方の出入り。
城東は来賓や仕事関係。
城西は搬入用」
(ちゃんと分かれてるんだ……)
「間違って他の門に行かないこと。大変なことになるから」
「はい」
(ほんとに良かった……)
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「最初は洗濯をお願いするわね」
メイド長は服を差し出した。
「これに着替えて待ってて」
そう言って部屋を出ていく。
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(……これがメイド服)
なんだか、オムライスにケチャップをかける場面を想像してしまう。
(私、オタクすぎる……)
そう思いながら、着替える。
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数分後、ノックの音。
ドアが開き、メイド長とエミが入ってきた。
私は立ち上がり、会釈する。
「エミさんよ。あなたの教育担当をしてもらうの」
「よろしくね 分からないことは何でも聞いて」
「はい!」
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「じゃあ私はこれで」
メイド長はそう言って部屋を出ていった。
残されたのは、エミさんと私。
「洗濯物、たくさんあるから早速行くよ」
「はい!」
私は急いで後を追う。
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(大丈夫かな……)
不安はある。
でも――
働かざる者食うべからず。
取引もある。
負けていられない。
私は気合いを入れて、一歩踏み出した。




