私の就職先は王城!?
「ご紹介できるお仕事がございません」
アンナのその一言で、私は完全に固まった。
(……仕事が、ない?)
次から次へと問題が降ってくる。
「仕事がないって、どういうこと?」
アンナは冷静に説明する。
「お嬢様は公爵家のご令嬢です。魔力を必要としない仕事は、主に町――平民の区域にございます。そこで働けば、公爵家に良くない噂が立ちます」
「……理解した」
身分による格差。異世界あるある。
この世界も、例外じゃない。
少しだけ胸が重くなる。
「じゃあ、貴族街で働く人は魔力が必要なの?」
「いいえ」
「は?」
思わず声が漏れた。
「さっきから話が合ってない気がするんだけど」
「魔力ではなく――才能です」
アンナが少しだけ誇らしげに胸を張る。
「私は家事の才を持っています。魔力や才能は、仕事において有利になります」
「才能、ねぇ……」
私は視線を落とす。
フェリシアの魔力は、私には使えない。
なら才能だって――受け継いでいるとは限らない。
そのとき、アンナがぱっと顔を明るくした。
「そうだ! サユ様はお料理ができますよね?」
「まさか、それを才能って言うんじゃないでしょうね?」
「才能です!」
即答だった。
「違う」
私は逆に自信なさげに返す。
「才能って、生まれ持って他より優れていることじゃないの? 私は何でも作れるわけじゃない」
「ですが、とても美味しかったです」
「……うん」
少し照れる。
「料理ができることは立派な才能です。ご自身で思っているより、価値のあることですよ」
胸が、じんわり温かくなる。
「今まで、誰かにちゃんと食べてもらうことがあまりなくて……他人から見てどうなのか、分からなかったの」
「そうでしたか」
アンナは柔らかく微笑んだ。
「料理がお好きでしたら、ご紹介できるお仕事は……ございます」
「え!?」
一気にテンションが跳ね上がる。
「問題はありますが」
「言って!」
「一番大事なことですので、心してお聞きください」
ゴクリ、と唾を飲む。
「サユ様は……死刑宣告を受けた身です」
「知ってる」
思わず即答。
「死刑者は、正式な職に就くことができません」
「それ、最重要事項じゃん!」
「ですから最初に申し上げました」
確かに。
「なら、変装すればいいのよね?」
「また罪を重ねるおつもりですか!?」
「違うわよ!」
私は慌てて否定する。
「元々、私は罪なんて犯してないんだから」
「……そうですね」
アンナは小さく頷く。
「では、何かお考えが?」
「あるわ。簡単よ。変装して働けばいい」
「どこが簡単なのですか……」
疑いの目。
「でも他に方法がないでしょ? 料理人になれれば、美味しいものも増えるし」
「……!」
アンナの目が輝く。
「喜ぶの早いわよ。で、候補は?」
「二つございます。
一つは、貴族街のレストラン。
もう一つは、街の中心にある屋敷です」
「レストランは?」
「接客、会計も含みます」
「二番!」
「まだ説明しておりません!」
「接客と会計は無理!」
前世のバイトで金額ミスを出した記憶が蘇る。
この世界の通貨で間違えたら、笑い話で済まない。
「……私も、二番の方が適しているかと」
「二番って何?」
「簡単に言えば、屋敷付きの料理人です」
「有名なの?」
「有名というより……サユ様もよくご存知の方のお屋敷です」
「……はい?」
嫌な予感がする。
「そこにお住まいですよ?」
頭の中に浮かぶ、青い髪。
私はぶんぶん首を振る。
「まさか……ベネディクト様?」
「はい」
「城!?」
「はい」
「王太子の!?」
「その通りでございます!」
アンナが誇らしげに頷く。
私は遠い目をした。
(どうやら私は、最も目立つ場所に潜入するらしい)
――よりによって、王太子の城。
私の人生、難易度高すぎない?




