甘い取引のはじまり
「大丈夫よ。心臓より胃に優しい取引だから」
「……胃に優しい、ですか?」
「この取引の間、私が料理をしたらおすそ分けします」
アンナの目がぴくりと動く。
「この前の料理のような……?」
「違います!」
私は勢いよく立ち上がった。
「甘くて、美味しくて、食べたら幸せになる食べ物です。例えば――」
(クッキー、マカロン、プリン、ケーキ、ポテトチップス……それにシュワシュワのメロンソーダ!)
想像しただけで幸せ。
「サユ様……」
はっ、と我に返る。
「失礼。話を戻しますね」
優雅ぶって座り直す。
⸻
「この家の財政が良くないのは、アンナも知っているでしょ?」
「……贅沢は、難しいかと」
「だから稼ぐの。今のままだとお菓子も買えない」
「お菓子……?」
「果物は美味しいけど、“お菓子”じゃないの」
私は胸を張る。
「甘いものは得意よ。この前の料理、美味しかったでしょ?」
「……はい」
「他にも食べてみたくない?」
アンナの瞳がきらきらする。
「……食べてみたいです」
すぐにハッとして姿勢を正す。
「も、申し訳ございません」
「いいのよ。食欲は正直だから」
⸻
「で、取引内容よ」
私は指を立てる。
「この家の財政状況と、使用人の構成。それから――私が働けそうな場所の情報が欲しい」
「……多くありませんか?」
「今頼れるのは、アンナだけだもの」
沈黙。
やがて、アンナは小さく息を吐いた。
「……承知いたしました」
「本当?」
「依頼を果たせば、サユ様の“お菓子”がいただけるのですね?」
「もちろん。働かざる者、食うべからず」
「……分かりました。お取引、お受けいたします」
さっきまで嫌そうだったのに。
お菓子の力、恐るべし。
⸻
「ただし」
アンナが真顔に戻る。
「お仕事をするには、魔力の有無が重要です」
「……魔力?」
転生イベント!?
「使えるかもしれない!」
「確認いたしましょう」
「え」
「外へ参ります」
「外!?」
アンナは手際よく食器を片付け始める。
「魔力詠唱の確認をいたします」
「ちょっと待って、詠唱って何!?」
「サユ様。お菓子のためです」
ぐうの音も出ない。
⸻
こうして私たちは、
お菓子と未来のために――
魔力を確認しに外へ出ることになった。




