アンナと食べたい
翌朝。
目が覚めた瞬間、私は天井を見つめたまま動けなかった。
(……寝た気がしない)
部屋には、静かな雨音が響いている。
ベッドから身を起こし、窓の外へ目を向けた。
雨の景色を見るのは、転生して初めてだった。
前の世界の雨とはどこか違い、少し遠く感じる。
(今のこの、モヤモヤした気持ちのせいなのかな)
昨夜の会話が、何度も頭の中で繰り返される。
アンナの表情。
戸惑い。
そして――涙。
「……やっぱり、言わない方がよかったかな」
小さく呟いた、その時。
コンコン、とノックの音が響いた。
「お嬢様、失礼いたします」
聞き慣れた声。
けれど――どこか距離を感じた。
「お着替えをお持ちいたしました」
部屋へ入ってきたアンナは、私と目を合わせようとしない。
「おはよう、アンナ。今日は雨だね」
「そうですね」
短い返事。
それだけなのに、胸が少し痛んだ。
「朝食は奥様のご希望でご一緒にとおっしゃられておりますが、どうされますか?」
「……夜でもいいかしら?」
「大丈夫ですが、朝食はどうされますか?」
私はアンナへ歩み寄る。
けれど、やはり彼女はこちらを見ようとしない。
「アンナと食べるわ」
アンナは、驚いたように顔を上げた。
やっと、目が合う。
ほんの一瞬だけだったけれど、
昨夜からずっと避けられていた視線が、確かにこちらへ向けられていた。
「本当におっしゃっていますか?」
「そうだけど。体調が優れないって理由にしておけば、怪しまれないと思うし」
「ですが……」
アンナは少し迷うように視線を揺らしたあと、小さく頷いた。
「かしこまりました。ご用意させていただきます」
丁寧に一礼し、アンナは扉へ向かう。
扉が開き、静かに閉じられる――その直前。
去り際、ほんの一瞬だけ――こちらを見た気がした。
それが気のせいだったのか、確かめる前に扉は閉まった。




