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処刑寸前の悪役令嬢ですが、中身が不思議ちゃんオタクなので推しを幸せにすることにしました  作者: 花の香り
アニメの最終回

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帰宅と、家族の温度

ベネディクト様に送られたあと、私は父に連れられて屋敷の応接室へ通された。


 重厚な扉が閉まる。


 ソファへ座るよう促され、私は大人しく腰を下ろした。


 向かいのソファには父が座る。


 その瞬間、侍女のアンナが父の顔色をうかがうように一礼し、静かに部屋を出ていった。


(……え、なんで出ていくの?)


 部屋には沈黙だけが残る。


 息が詰まりそうな空気。


 時計の音だけがやけに大きく聞こえた。


 ――そのとき。


 勢いよく扉が開いた。


「フェリシア!」


「は、はい!」


 突然強く名前を呼ばれ、反射的に返事をしてしまう。


 一人の女性がまっすぐこちらへ歩いてきて、私の隣に腰を下ろした。


(え? なに? なに?)


 そこで気づく。


(アンナ、お母様を呼びに行ってたのね)


 みんな、何を考えているのか分からなすぎる。


「フェリシア……なんて可哀想な子。お母様のことは覚えている?」


「覚えています。でも、うっすらで……すみません」


 本当は違う。


 ある程度は知っている。


 けれど――知らないふりをして生きるしかない。


 バレたら終わりなんだから。


「そうなのね。大丈夫よ。お母様が何とかしてあげるから」


「エレノア、言い過ぎだ。自業自得だ」


 父が冷たく言い放つ。


(……はぁ)


 やっぱり、この人は何を考えているのか分からない。


「ヴィクトル、言い過ぎです。

やっぱりベネディクト様との婚姻なんて、無理だったのよ」


「この結婚は利益になる。互いに利がある話だ」


 父は淡々と続けた。


「ここまで手をかけて育てたのだ。成果がなければ困るだろう」


 胸が少し痛んだ。


「……私が悪いのです」


 自然と口から出た言葉。


 この人の前だと、強く出られない。


(毎日こんな思いをしてたの?)


(……私の推し、強すぎない?)


「ああ、分かっているならいい。さっさと結婚しろ。この家を救ってくれ」


「私は反対です! いつもそうやって!」


 母が立ち上がる。


「フェリシアのことを考えたことがあるの!?」


「あるとも。王太子と婚約し、権力を得て裕福に生きる。未来まで考えているのは私だ」


 言い争いが激しくなる。


 胸がざわつく。


「あの……」


 二人の声の隙間に、そっと言葉を落とした。


「帰ったばかりで、少し疲れてしまって……部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」


 母がはっとした顔をする。


「ごめんなさい、フェリシア。あなたの言う通りね。帰ったばかりなのに……」


「では、失礼します」


 部屋を出ると、待っていたアンナが静かに頭を下げた。


「お部屋へご案内いたします」


 私は黙って後をついていく。


 長い廊下を進み、扉の前で止まった。


「こちらでございます」


 扉を開ける。


 ――フェリシアの部屋だった。


(……わ)


 思わず少しテンションが上がる。


(推しの部屋……聖地巡礼じゃん……)


「アンナ、ごめん。少し一人にしてくれる?」


「かしこまりました。お呼びでしたらベルをお鳴らしください」


 静かに扉が閉まる。


 その音を聞いた瞬間、私はベッドへダイブした。


「……はぁぁ……」


 天井を見上げる。


 こんな生活、ずっと続くのは嫌だ。


 言い争う声。


 本音の見えない家族。


 何を考えているのか分からない人たち。


 ――ふと、自分の家族を思い出した。


 あまり覚えていないけれど、よく喧嘩をしていた。


 母は何も教えてくれなかった。


 でも、借金の請求書を見れば分かった。


 父は――母と私を置いて逃げたのだ。


 だから。


 言い争いを見るのは、苦しい。


 私はベッドから起き上がった。


「……うわ」


 思わず声が出た。


 鏡の中に写っているのは、燃えるような赤い髪。

 高校生の私の髪はもっと地味だったのに、今の私はモデルさんみたいに華やかなウェーブがかった赤髪が背中まで流れている。

 しかも、美女。

 大人っぽくて、鼻筋がすっと通っていて、瞳の力がめちゃくちゃ強い。


 まさに、私がゲームで「このビジュアル、神!」って崇めてた、あのフェリシアそのものだった。



(……やば、現実なんだ、これ)



 この圧倒的な美女の顔も、今私が動かしているこの体も。


 そして、さっきの「くそお父さん」に詰め寄られてた、この子のハードな人生も。

 もしこのまま、私がビビって何もしなかったら。

 フェリシアはあの冷え切った家の中で、心を壊して……最後には最悪の結末を迎えてしまう。



(……そんなの、絶対嫌!)


 私は鏡の中のフェリシアの頬を、自分の手でパシッ!と叩いた。気合注入。

 中身はただの高校生だけど。


「ファンが推しを不幸にしてどうするのよ。そんなのファン失格じゃん!」


 鏡の中の「大人な美人」が、私と同じように、負けん気の強い顔で笑った気がした。


 私は勢いよくベルを鳴らした。


「お嬢様、お呼びでしょうか?」


(早っ!? このベルすごい!)


「アンナ、料理室へ案内してくれる?」


「かしこまりました、お嬢様」


 今の私は――


 猪突猛進なんだから。


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