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37着目

前回ふりがなを入れ忘れましたが、魔獣博士と書いてクソ剣と呼びます。

『あ、ああ。つまり《理性》だ』


 《理性》? とりあえず頭の中で疑問を提示しつつ、今背にしている木に向き直り、登る。

 多分イグニションベアは私の居場所はわかってるだろう。わかってるけど、登る。


『知性でもいいけどな。魔獣や幻獣は普通の獣と違って《本能》を抑えて行動できる』


 えーと、そうなのか。本能を抑えた行動? 本能を抑えた行動ってなんだろう? 今こうして私を追いかけ回しながらも殺さないでいるのがまさにそういうことだって言いたいんだろうけど、いまいちその言葉の意味がつかめない。本能っていうと、例えば食欲とか……それを我慢することが本能を抑えるってこと? なんか違う気がするんだけど。


『一旦魔獣と普通の獣の違いを並べるぞ? よく聞け』


 悠長ね!? まあ聞くけど。


『魔力を原動力にした力を持ってる』


『知性や理性に類するものを持っている』


『同じ形の動物よりもふた回りほど大きい』


『動物と比べて圧倒的な運動能力を備えている』


『生殖によらないなんらかの繁殖方法を持っている』


『世界をおせ……いや、これはいいか』

「ちょっと、気になるんだけど」

『気にするな。今は忘れろ』


 まあ、重要なことなじゃないってことなのね。逆に言えば、残りの情報から弱点を探さなきゃいけないってことかしら。

 イグニションベアは……今は木の周りをぐるぐると回っている。私の姿をしっかりと視界に入れたままで。

 うん、予想通りだけど、追い詰めてるって確信がある間はあんまり派手な手をうってはこないのね。さっきの一撃も、多分手加減されてたんでしょう。だってあの速度よ? 笑うところを見せつけたのよ? あれがなければそれだけで私は死んでたはずだわ。

 だとしたら弱点は?


『いいか? これらの要素がすべて《覚醒》で発揮された才能によって賄われてるんだ』

「……つまり?」

『いいからちょっとは考えろよ』


 ええと……おっと。

 考えようと思って足と手を止めたとたんにイグニションベアが思い切り木の幹を叩いた。

 倒れたり振り落とされたりはしないけど落ちそうになったのは確かだ。必死にしがみついて、木の揺れが収まると同時に再び登り始める。どうやら動きを止めたら余裕があるものとみなされるらしいわね。やっぱり考える余裕ないわ。登るだけで精一杯だもの。

 というか、この木登れる所まで登りきったらどうしようかしら?


『例えば魔力を集めて炎として纏う才能だろ、それから体格は……大きくなってないからそういう才能はないんだろうな』

「まあ……確かにいきなりでかくなったりはしなかったわね。火がついた時は結構びっくりしたから大きくなってても気づかなかっただろうけど」

『俺から見てもでかくはなってないから間違いない。話を続けるぞ。少なくとも突進で大木へし折ってんだから、運動能力は魔獣並みのものがあるだろ』

「まあ、自分よりでかい木の幹へし折ってるものね。あの炎のせいもあるだろうけど」


 あ。


『それからこんだけのたくさお前を追っかけてるんだから、少なくともお前をおっか来ることに時間をかけようと思えるだけの才能があるんだろう。例えば本能を抑制する才能とかな』

「本能を……抑制する?」


 そこは普通に『知性がつく』とかでいいんじゃないかしら?

 っと、木のてっぺんまできちゃったわね。ちらりと下を見たら、イグニションベアが悠々と木を登り始めた。さすがに縦方向にはあの速度で突進はできない……ということかしら。だったらいいのだけど。いや、関係ないか。今の所逃げられそうにないわけだし。


『知性はないだろう。もう晩秋だぞ? とっとと食べ物を集めて冬眠しなきゃいけない時期だ。なのにこんな不毛な場所で、お前相手にたらたら遊んでる。そんなの知性じゃない』

「知性……」


 まあ、イグニションベアの目つきはかなり血走っていて危ない感じだ。私以外何も見えてない。そんな気がする。

 少なくとも理知的でないことは確かね。


「一応、私とあの子さえ食べれば大丈夫だと判断しているのかも」

『そういう体格に見えるか?』

「……まあ、見えないわね」


 お腹ぺしゃんこだし。決して豊かな食生活を送っている風な体格じゃない。


「つまり何が言いたいのよ?」

『あいつはな。今空腹であることも、すぐに冬眠に備えなきゃいけないことも、全部無視してお前で遊ぼうとしてるんだよ。つまり正気じゃない』

「正気ね。熊の?」

『熊のな。どんなもんがそれなのかはわからんけど』

「熊の正気はね、飯食って寝て、春になったら子作りして、冬眠と一緒に出産に備えて。それだけのことよ」

『じゃあやっぱりこいつは正気じゃないな』


 こいつ……うん、もうこいつっていえる距離まで迫ってきてるものね。いい加減手を打たないとこのまま一撃もらって地面に叩きつけられておしまいだわ。すでにその体から立ち上る炎の気配で気分悪いもの。

 どうしよう。とりあえず登ってくる側と反対側に回り込んでは見るけれど……意味があるかしら。


『まあな、つまりこいつは本能で自分の空腹を無視してるんだよ。その意味が……わかるな?』

「ああ……なるほど」


 ……さっぱりわからん。

いつもありがとうございます。

ちょっと前から気にしてたんですけど、イグニションベアだと『点火熊』ですよね。少なくとも火がついた熊……延焼した熊じゃない気がします。


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