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「今手元にある武器は鉈が一本。弓が一張りに矢が三本。それとあんた」
『あ、まちがっても俺は使うなよ』
「なんで?」
『下手にあいつに刺さってみろ、あいつ今より強くなるぞ』
「は?」
『本体 と宝石 、分かれてるから力が弱くなってるって言ったろ』
「……うわぁ」
そういえばそんな話もしてたわね。てことは何? こいつ武器としては使い物にならないって……いや、最初から熊相手に使うには武器としては頼りないものだったか。見た目は普通の短剣もとい刃折れの剣だもんね。刃を触った感じは特に鋭いってわけでもなさそうだし。
「ちなみに宝石 を取り返したら私が強くなるって可能性は?」
『あんまし見込み無いな……っていうか取り戻せるのか?』
「熊を殺さない限り無理でしょうね。あの巨躯のどの辺にあるのか、正確に把握できるの?」
『無理無理』
それがわかるなら一種の弱点と見ることもできるのだけど。残念ね。
……しかしあの熊、全然襲って来ないわね。有り難いけど、かなり不気味だわ。なんでなのかしら。気配は全く離れないから、私を追えないわけじゃないのは確かなのよね。
私だって狩人見習いしてたわけで、都会のおぼこ娘じゃあるまいし『動物は食うためだけに殺す! 命で遊んだりしない!』なんて言うつもりはない。自分が遊ばれてるんだろうってことはよくわかってる。
だけど、いくらなんでも遊びすぎじゃないだろうか。
『案外その辺が付け込めるかもな』
「どういうこと?」
『まあなんて言うか……《魔獣になる才能》なんてものは無いんだ』
「今更なに言ってんの?」
現にあいつ、魔獣になってるじゃない。
『いやさ、魔獣になるってことはつまり、別の生き物になるってことだぞ? それは無いんだ。有り得ないんだよ。《エルフみたいに精霊魔法が使える才能》はあるけど《エルフになる才能》は無いんだ』
「違いがわからない……とは言わないけど、つまり何が言いたいの?」
『あいつは魔獣になったわけじゃない。いくつかの才能が作用してそう見えるだけだ。なあ、普通の獣と魔獣の違いってなんだ?』
「見るからに別物でしょ!」
『そうじゃねえ部分だよ!』
見てわからない魔獣と獣の違い? ええと、血とか? 私達に流れる赤い血とも幻獣の持つ青血とも違う、あるいは魔血と呼ばれる血。微かに光るその黒い血は、確かに魔獣が魔獣足る要素だそうだけど……だからどうした。そんなものでなにをどう付け込めば良いのかわからないし、私で遊んでいることと繋がるとも……いや待った。私で遊ぶ ?
今なにか引っ掛かった……ような、気のせいなような。
気になる。
今の違和感の正体が気になる。
火のついた熊 は相変わらず、つかずはなれずの距離で……といっても3 ハード も離れていないすぐ後ろにいるようだけど……追って来ている。
「……」
『おい、どうした? なんで止まる、馬鹿、やめろ!』
足を止め、張り付いた木の陰からそっと顔をだす。そこにいる熊をこの目で見極めれば何かわかるんじゃないか、そう思うといてもたってもいられなくなったんだ。だけどほんの少し顔を覗かせただけで、熊と目があった。動物とは思えない、厭らしい人間的な笑み。
Vo.
その身にまとった炎が爆発的に膨れ上がり、両前脚が地面に着く。
足を止めて奴の姿を確認せざるおえない気分にさせた、それととは比べ物にならないもっと直感的で本能的な恐怖が脳天からつま先まで私自身を真っ二つにする。
慌てて木の裏に引っ込む。
いや、これじゃ足りない。とっさに顔を出したのと反対側に全身の力を使い切るつもりで飛び出す。
「っぐえ!」
VoOOOOOOOOOOoaA!!!
まともに受身も取れず地面に顔面を叩きつける羽目になるも、なんとか隣の木の陰に身を隠した……次の瞬間。背後を暴力的な熱波が吹き抜けた。
Boom !!
そして気のせいじゃなければ、根元が吹き飛んだ大木がまっすぐ倒れる音。
さっき振り向きたくなったのと似ていて違う理由で振り向きたくない。
「ねえ、魔獣博士。私30年しか生きてないしがない村娘なの。よくわかんないこと言ってるとその間に死んじゃうわよ!」




