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 地を這い、木に登り、陰から陰へ身を移す。一応熊にばれないように動いているつもりだけど、実際の効果のほどはどうにも怪しい。あの時のように雨も降っていないし、油をぶちまけたりもしていない。熊が一気に攻撃してこないのは、あくまで遊んでるからじゃないだろうか? まあ、私が戦う分には、なめられてた方が都合がいいんだけど。

 魔獣となった熊を殺す。まあ元から魔獣として炎を纏っていたわけじゃないことから『火のついた ガレイフォウゥバ』とでも呼ぼうかしら。

 本来は魔獣の名前に使われる専門の言葉があるのだけど、普通に暮らしてたらそんな言葉を習う機会はないもの。残念ながら私はそんなもの知らないので、普通の言葉を使うしかない。


『火のついた熊……イグニションベアってところか』


 ……。


「何あなた、魔獣の命名に使われる言葉知ってるの?」

『そりゃまあな。長生きしてるもんで』

「ふーん? あながち冗談で熊退治に手を貸すって言ったわけじゃないみたいね」


 ちぇ。この一度でも魔獣の名前をつけるなんて貴重な体験ができるのかと思ったのに。名もない喋る剣に取られた。あ、いや、名前はあるんだっけ。最初会った時に魔剣サーシスとか名乗ってたわ。

 まあいいわ、とにかく今は戦いを手伝ってもらいましょう。

 この魔獣となった熊、イグニションベアを殺す。

 そう言うとなかなか大事のようだけど、実際はそうでもない。なぜって、この条件は以前とそう変わらないからだ。

 初めて私がこの熊と会った時、私の手元に毒はなく弓と三本の矢だけがあった。そして、つれていた少女を助けるためには、熊を殺す必要がある……と、そう思っていた。実際は声で追い払うだけで済んだんだけど。

 今の状況は……毒はあるけど通じない。弓と矢が手元にある。彼女を助けるためにはイグニションベアを殺さなきゃいけない。魔獣となったことで強くなったりしたかもしれないけれど、その辺は未知数なので保留。むしろプラスの要素としては、謎の魔剣。以前勝ったという精神的な優位性か。私が逃げることでそれはもうないことになっただろうけど、一応ね。

 ん? なんか変じゃないか?


『おい、さっきからお前の思考読んでて疑問なんだけどさ』

「なに?」

『お前、あの熊にあったことあるのか?』

「ん?」


 そりゃ当然、以前も少女をめぐって……んん!?

 いや、ちょっと待て私。何事もなかったかのように、再会したつもりになってるけど、この熊あれとは別じ……別熊の可能性あるよね!?

 っていうか別熊の可能性の方がずっと高いでしょ。あれからどんだけ歩いたと思ってるの? 野生動物なんだから当然縄張りだってあるわけで、いくら冬眠するような季節だったとしても、よその領域 ヤマまで来るなんて普通はしないはずよ。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ダメだ。違う。あいつはあの時の熊だ。根拠はないけど、確信がある。あの弱った体で、きっとその餓えた心のままに私たちを追ってきた。今あの子を埋めようとも殺そうともしないのは、きっと私を釣るためだ。野生の世界には本来そんなルールはない。敗北したものは見捨てるのが野生の掟 ほんとうだ。にもかかわらずあの時私が見捨てられなかったのをわかって、今こうしているんだろう。

 ……なんてこと。それが本当なら並の獣とは比べられないくらい知恵があるわね。

 普通に考えたらただの考えすぎとか、思い込みで済むところなんだけど……うーん、なんでだかよくわからないけどそうだという確信があるのよね。なんでかしら。

 まあ確信の理由なんてところはどうでもいいわ。そうなんだということに変わりはないんだから。


『おい?』

「あ、ああごめん。あるわ」

『特に傷とか特ちょうなさそうだけど、よくわかるな』

「なんとなくわかるのよ」

『……』

「あ、疑わしいと思ってるわね?」

『いや、確信してる』


 それ私の台詞 せりふ

 っていうかもうだいぶ逃げてるのに建設的な話全然してないわ。

いつも読んでくださってありがとうございます。

シリアスな場面のはずなのに、なぜか油断するとギャグテイストになっている気がします。

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