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『しかもそれだけじゃねえ』
あ、ちょっと、さっぱりわからないんだけど、話進めちゃうの?
『あいつはついさっき、俺たちの眼の前でああ なった』
「『ああ』……魔獣みたいにってことね」
ふと下を見ると、熊が纏う炎の熱で気分は悪くなるものの、不思議と今いる木が燃えたり焦げたりするような様子はない。もういっそ、不思議というより不気味に感じる気持ちのほうが強いけど、あれも魔法の一種なんだと思うとちょっと憧れるような気持ちも……いや、ないな。不気味で気持ち悪いや。
『さっき魔獣の定義について説明したろ? 魔力を原動力にした力を持っているって』
「ええまあ。さっきも言ったけど話は手短にお願い」
とりあえず話を聞きながらでもここからどう脱出するか考えないとね。話がまとまっても、結局逃れることはできずそのまま登ってきたイグニションベアに殴られて『残念! 私の冒険はここで終わってしまった』。というわけにもいかない……まあ縄も外套もない以上、脱出する手段は他の木に飛び移るくらいしかないんだけど、よりによって一際高い木のてっぺんまで登ってきちゃったものね。うっかり飛び出して隣の木のてっぺんに串刺し……とかは勘弁して欲しいところだわ。
『なあ、魔力って何でできてるか知ってるか?』
「何でってそりゃ、体の力と心の力を練り上げてってやつでしょ?」
『おう。幻獣や魔獣、人間種以外の動物は魔力を持たねえ。なぜだ?』
「この流れだと、それらは『心の力』を持たないってことね」
『まあ、魔獣にも『心の力』があるわけじゃないんだけどな……』
「はい? え、どういうこと?」
『あいつの背中で燃えたぎってる炎、あれが魔力でできてるのはわかるよな』
「そりゃまあ」
『お前、できるか?』
「どういう意味?」
『別に炎じゃなくてもいい。魔力をああやって一日中滾らせてられるか? ましてや死体になった後も』
「無理に決まってるわ」
『つまりそこには別の仕組み があるってことだ』
隣の木まではまあ、目測2 ハード ほどだろう。ただ、隣の木では若干低い。落差が5 ハード いないで済ませられるのは、もう少し遠い木だ。それだって線が細くて不安になるところはあるけれど、他はもっとひどい。この体勢から飛ぶことを含めて考えても、あんまり遠くは無理だけど……それでも3 ハード ほどは落下分も考えればなんとかなる……と思うしかない。
問題はまだある。跳ぶ機 だ。多分私よりイグニションベアの方がうまく飛べることだろう。そう思うと、あんまり跳ぶのが遅いと上から熊が降ってくることになるかもしれない。かといって速すぎれば奴は追うのをやめて、真剣に殺しに来る可能性もある。
あくまで追い詰められながら逃げないといけないんだ。
『この際細かい仕組みの説明は置いておくが、つまりは』
「あいつはただでさえ腹が減ってるのに今もお腹が減るようなことを続けてる……」
『しかも自覚なしに自分の身を削りながらな』
「逃げ切れば勝ちってこと?」
『……ああ。ただし問題がある』
「問題?」
『お前、俺を少しだけ手放してみろ。そこの枝にでも挟んでな』
「? うん」
イグニションベアとの距離は……10 ハード ほど。時々無駄に木を揺すったり、枝を折って地面に捨てたりしながら登ってくる。
思えば随分高い木に登ってしまったものだ。妙に感慨深いというか、正直やらかしたなぁという思いはあるものの、とりあえず剣が言うのにしたがって、万が一にも落とさないように木の枝の股に柄を挟むように……
「……!?」
なんとも言えない感覚に、思わず声にならない悲鳴をあげる。
いや、とっさに悲鳴を上げようとしたものの、それを喉から搾り出すだけの力が今の私にはなかった。
全身がだるくて重い。頭が殴られたみたいに、急速に曇っていく。視界が黒に覆われて……
「!」
慌てて剣を掴み直す。すると、全身を覆う怠さが、頭の重さが、視界の黒が急速に晴れていく。
「はっ……はっ……はぁ……」
『問題は、お前も熊と同じ状態ってことだな』
これはまずい。
いつも読んでくださってありがとうございます。




