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「いないわね……ホーマンディーナテルンダ!」
まあ、向こうだって移動しているのだから当然といえば当然なのだけど。見てわかる範囲内にいないとなると、想像以上の速度で移動していることになる。
私が穴を掘って、ばたばた歩き回って、木に登って、降りて、剣を脅しつけて。
それだけのことをしている間に彼女が離れた距離はたった20 ハード だ。平地での私の一歩が1.5 センク 程度で、1秒に3歩ほど移動するから2秒あれば1ハード移動できることになる。おそらく10分以上の時間をさきの行動で潰していたのだから、年齢的な行動能力もさることながら、彼女がいかにあてなく行動しているのかがわかるというものだ。
おそらく私のいた場所から元気良く立ち上がり歩き出したのはいいものの、その後の行動の当てが全く無いのだろう。多分私の声だって聞こえていたはずだ。だけど、私を身内として認識していない彼女は……それを無視した。
「もう一月以上一緒にいるはずなのになぁ……」
まあ人と人の関わりって時間だけで測れるものじゃ無いものね。その間に会話らしい会話は全くしていないのだからしょうがないといえばしょうがないのだけど。
それでもずっと真剣にあの子のことを考えていたつもりだから、ちょっと凹む。
「んで、次はどっち?」
『あ? 俺に言ってんのか?』
剣に問いを飛ばすと、間の抜けた答えが帰ってくる。なんていうか、だめよねこいつ。きっと前の持ち主も相応の苦労をしたのだろう。お疲れさまでした。
「なに、あんた私に協力するのやめんの?」
『い、いや、そんなつもりはねーよ』
「だったらとっとと教えなさい。無駄話はいいから」
『おう……ええと、そうだな、このまままっすぐ5 ハード くらい?』
「近いわね」
『動きがすごく遅いからな。見える範囲の木の後ろとかにいるんじゃ無いか?』
「ふん」
それくらいの距離なら‥‥いけるか? 深呼吸。息を吸って、吐いて。吸って。吐いて。
息を整え意識を研ぎ澄ます。
……おっと、疲労に意識が取られかけた。剣の力の《覚醒》とやらも万能じゃ無いみたいね。ちゃんと疲労があって、蓄積してる。それを一時的に遠ざけてるに過ぎない。油断するとまた倒れてしまうのかもしれない。
だけどそれはつまり、彼女も同じように万全じゃ無いということ。私の魔力で飲まず食わずの状態をごまかしているに過ぎないのだし、自発的な運動がなければ肉も衰える。彼女はすでに十分すぎるほど弱っている。しかも私のように食べるものを探すこともできない彼女は、つまり弱っている自分自身を回復させる手段が無いということだ。私は魔力を練れば一時的に疲労を誤魔化すことはできるのだから、ちゃんと落ちつてい追跡すれば彼女が私に勝つことはありえないと言える。
いける。だから落ち着け私。
彼女がどういうつもりで逃げてるのかはどうでもいい。私は彼女を守ると、生き延びさせると決めた。
だから探せ。
呼吸音。足音。衣摺れ。
なんでもいい。人間の気配、風が止まる音。
探せ、探せ、探せ。
「いた。」
『お? 今ちょっと動いたぞ』
「知ってる」
本当にすぐ近くを歩いてる。
っていうかこれはあれだ。這ってる。歩いてない。
二、三の木に遮られて直接見ることはできないけれど、そこ を這って移動しているのが感覚として感じ取れる。本当にすぐそこだ。
行こう。
「そういえばあんた」
『ん?』
「柄の宝石って取り戻したく無いの?」
『そりゃ取り戻したいに決まってるだろ』
「ふーん。あんた、私が放り捨ててたら本当にどうする気だったのよ」
『うー……』
しかしなんでそんな動き方をしているんだろう? 足を怪我したのかしら。場合によっては一度リザードマンさんのところに戻ったほうがいいかしら。この剣のこともあるし。
まあなんにせよ、まずは彼女を掴まえることね。
「ほら見つけ、た?」
『は』
彼女は確かにそこにいた。
ついさっき意識を研ぎ澄ませた場所からきっかり5 ハード にあった2本の大木の、ちょうど後ろ。斜め手前にもう一本あるせいで、すごく死角が多くて、そりゃ見えなくてもしょうがないかなって感じだ。そしてその場所の、高さ1ハード 。
いや、今、落ちた。
目の前の地面に横たわる、彼女の右手は無い。
それはきっと、そこにある。
目の前の熊の。
Voa?
腹の底に。
VoaaaaaaaaaaaaaaA!!
いつも読んでくださってありがとうございます。




