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30着目

「まあ、なんでもいいわ。しゃべれるならその分高く売れそうね」


 正直今忙しいからあんまり関わってる暇は無いし。荷袋にでも放り込んで忘れましょう。


『ちょちょちょ、ちょっと待てよ! 売るなって! しゃべる剣だぜ? 手放したら二度と手に入らないぜ!?』

「だって私しゃべる剣に用は無いもの」

『いやいやいや、こんなとこで一人で穴掘ってるなんて寂しいだろ? 暇だろ? 話し相手が欲しいだろ!?』


 ふむ。確かに一理ある。

 一理あるけど……今それより重要な情報があったわね。


「何あなた、見えてるの?」

『あん?』

「喋るだけじゃなくて、私が見えてるの、と聞いてるんだけど?」

『おいおい、そんなこと聞くのかよ。俺をなんだと思ってんだ』

「売るか潰すかが適当そうな折れた剣 ガラクタ

『ひでぇ!』

「いいから答えてよ、見えてるのね!?」


 この剣は私が一人で穴を掘っていたことを知っていた。つまりそれを見ていたってことになる。もちろん、掘り出されたから掘っていたことを知っていて、さっきから私一人しか喋ってないから私を一人だと言っているのかもしれない。だいたい、私を一人だと断じている時点で見えているいないに関係なく不安がある。

 だけどもし最初から見えていたなら、彼女がどこに行ったかを知ってるかもしれない!


「ここに女の子がいたでしょ! 見てたわよね!?」

『ああ? あー……いつまでも夢に閉じこもってそうな嬢ちゃんのことか』


 やっぱり知ってた!


「その子があなたにどう見えてようと関係無いわ。いたことを知ってるってことは見えてたってことでしょ!」

『う、まあ、見てたわけじゃ無いけど知ってるぞ』

「……? 意味わかんないけど、知ってるのね。どこにいるの? あの子はどこに行ったの!?」


 思わず両手で剣の柄を握って、剣身にかぶりつくように叫ぶ。

 知ってるなら教えて欲しい。今この瞬間にも時間は過ぎていき、彼女は遠ざかっていく。少しでも早く合流したい。

 さっきから剣に話しかけながら地面を見ているけど、散々掘り返した土をあっちこっちに撒き散らしているせいで足跡も見つからない。少し離れればあるのを見つけられるかもしれないけど、それを探すのだってなにか方針があったほうがいいに決まってる。

 今どこにいるかなんて情報じゃなくていい。せめてどっちに行ったか。それだけの情報でいいから。


『ま、まあまあ、落ち着けって』

「早く。余計なことしか喋れないなら喋らないほうがよっぽど良いんだからね? なんならまた埋めるわよ」

『くっ、こっ、むぐぐ……だったら交換条件だ! 良いか? 俺を売るな。そんで、いつかイドゥンシヤに連れてけ!』

「そんな余計な話してる暇あると思ってんの?」

『少しくらい好きなこと喋らせろよ!』

「時と場合をわきまえろって言ってんのよ」

『あがががが……う、うううう、いいか? あいつの居場所はわかる。だから俺との交渉に応じろ!』

「あんたがいなくても目的は達成できる。っていうかさ」


 ちょっと今のは腹が立った。そういう交渉をしてくるなら、こっちも遠慮は必要無いわね。悪人ぶるつもりは無いけれど、時と場合をわきまえない相手に寛容でいられるほど呑気でも無いの。

 剣を放り捨てて、つま先で穴のふちに転がす。

 なんで埋まってたのかは知らないけど、また埋まりたいわけじゃ無いでしょ? いくら喋れようと、剣と人間じゃ立場が対等じゃ無いってわかってないのかしら?


「あんたに選択肢あんの?」

『……! ……っ! ……ーっ! わかったよ。教えるよ。くそ、あいつら良い奴だったんだな』


 黙って剣を半分穴の上に突き出す。

 時間の経過と一緒にあんたの言葉から価値がなくなってるって、良い加減わかったら? そういう気持ちを込めてみたんだけど。伝わったかしら?


『陽方、まっすぐ、今20 (36)ハード メートルくらい』

「よし」


 よし、わかってるみたいね。

 剣を片手に方角を見定める? 剣をそちらに向けると、肯定するような振動があった。すぐさま歩き出す。そのくらいの距離なら少し早歩きでいけば追いつけるだろう。

 なぜか元気になってはいるけれど、さすがに今すぐ走ろうという気にはならないし……ちょうど良いわね。


「それで、ちょっと話を聞こうじゃ無い。あんたあの子に何したの?」

『ううぇ!?』


 わっかりやす。

いつも読んでくださってありがとうございます。

遅刻してすいません。最近ちょっとポイント増えて嬉しいです。

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