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正直なところを言えば、木に登るのはあまり良く無いと思う。
それは私が木に登るのがあまり得意じゃ無いから……ではなくて、木に登るには登るなりの服装というものがあるからだ。
草履 は足首全体をきっちり固定するやつだからまだしも、手袋 は指ぬきだし、そもそも服全体の被覆面積が少ない。木の出す樹液や、とりついてる虫、鳥が残した糞尿、生えているきのこや寄生植物。人の毒になるものは沢山あるけれど、それでも気をつければ接触する場所を減らすことはできる。例えば膝まで巻いた麻布とか。だけど、木に登ろうとすれば否応なく接触は増える。それは、外套 一枚でどうにかなるものじゃ無い。
というかそれでどうにかしようとしたら手足の自由が利きにくくなって逆に危ない。
じゃあ、どうするか。
「なんて贅沢言ってる場合じゃ無いっての」
答え。どうもしない。
今はこのまま登る。有るか無いか明確じゃ無い毒を恐れる暇があったら、今明らかになっている少女の危機に向き合うべきだ。
円匙 代わりの木の板はその場に放り出し、荷物から出した弓を首にかけ、矢を腰の帯に挟み、鉈を口にくわえる。ちょっと臭い上に重いもっと軽い刃物があればよかったのに。短剣はゼレの、包丁はエイガの道具だったからなぁ。二人とも別に鉈持ってたのに……まあもらわれっこが言うことじゃ無いわよね。鉈一本私のものだっただけ良し。
とにかく必死になって木に登る。身体のあっちこっちが木に擦れて痛い、というか痒い。
なんとなく不快感があるけど、必死に登る。あっちこっちに枝があったり捩れてるから比較的登りやすい。
「ふんぐっ!」
これで5 ハード 。
視界は……木が多いせいであんまり開けたって感じがしない。結構遠くまで見えるけど、彼女の姿は無い。音は……しない。
ということは彼女はどこかに隠れてる? 慌ててたからその場にあった木にすぐ登っちゃったけど、案外この木の反対側にいたり……はさすがに気づくか。そうで無いにしても、案外近くの木の陰にいたかもしれない。もっと周囲を探索してから登るべきだったか。
というか私狩人見習い……の技を習ってるんだった。
普通に足跡とか調べようと思えば調べられたんじゃ無いの? 木に登ったせいで頭が冷えたのかしら。なんか落ち着いてきた。
「って、落ちつている場合じゃ無いわ!」
どうしよう、登るべきか降りるべきか。
もっと登れば見えてくるものもあるかもしれないけど、足跡とかを探すならすぐに降りた方がいいだろう。
正直、ここまで登るのもあまり順調 に済ませられたとは言い難い。かなり時間を使ってしまった。この高さでこの視界ではこれ以上登ってもあまり見込みは無いだろう。だけどだけどただ諦めるのはもったい無いというか、少なくとも高くなれば私の声は遠くまで届くはずだ。
もし彼女が喋れないままであっても、自主的に動いていれば私を見つけることができる。
もし彼女を追っている何者かがいれば、私の声に反応してこっちに来るかもしれない。
「いや、私が呼んでも彼女が呼ばれると認識できるかどうかわからないわね。目下、意味があるとすれば何者かがこっちに来るかどうかってだけか……うん、だったらここでいいわね」
深呼吸。そして息を大きく吸って、
「「ホーマンディー ナテルンダ !!!」」
放つ。声を。続けても一回!
「「「ホーマンディー ナテルンダ !!!」」」
はぁ。喉が、あの時ほどじゃ無いけど、痛い。
これで何も反応が無いなら、何者かってのはいないってことだろう。いないで欲しいけど、いてくれないと手がかりが無いのよね。
さて、どうやって探そうかしら?
「っと、あれ?」
目の前にあったはずの木の幹がみるみる遠く……
って私落ちてる!?
なんで!? 手が滑った? 何かに蹴られでもした? 撃たれた? 引っ張られた? わからない。理由が無い。なんの気配もなかったのに、私今どうなってる? もしかして宙に投げ出されごふぁ!?
「あー……思ったより、痛く、ない?」
背中から地面に叩きつけられた。けど、散々掘り返したりした土があったからそんなに痛く無い、かもしれない。いやそれでも全身に力は入らないし、頭がくわんくわんする。猛烈に重い。頭の重さで喉が潰れてるみたいな……これは……もしかして、眠いのか、私は。
……そうだ。眠いんだ。
よく考えたら6時間にわたる穴掘りでかなり疲れてたのに、そのあと叫んだり慌てて木に登ったり、また叫んだり。
この辺が私の体力の限界だったのか。すごく怠い。
頭に限らず全身が重い。
なんとなく土の冷たさが気持ちいい……けど、ここで寝たら、まずい。
まずい。
まずい。
……まずい。なんとか手をい動かせ。そうでなきゃ、そうでなきゃ、そうでなきゃ……
『おい、起きろ!』
!?
いつも読んでくださってありがとうございます。
ここのところ遅刻が多くて申し訳ありません。




