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 湖予定地 みずうみよていち原池 げんいけに着いてからそろそろ一週間になる。なんだかんだで吊網寝床 ハンモックとその上の屋根、それと食事用の火と火種を守る竃と竃を守る屋根まで用意できた。頑張った。頑張ったけど風はまったく防げない。竃で作業する時は女の子に覆いかぶさるようにして火と向き合っているし、寝る時は完全に抱き枕扱いにしている。寒いし雨が多いし最悪だ。

 おまけに春になる頃には乾季になるというのに池を湖にする作業はまったく手が付いていない。池の水位を上げて湖にするという目的を考えたら、どう考えても雨季のうちに作業を終えなければいけないだろうに。正直なところを言えばもう色々早まったなぁと思っている。まあ、雨の増水程度で水玉華が取れるのだったらきっと誰も苦労はしないんだろうけど、それでもね。

 唯一幸いだったのは池には水が流れ込んでいて、その中に魚がそれなりに混じっていることだろうか。何箇所か草で編んだ籠を仕掛ければ、面白いように魚が取れる。残念ながら私の拙い技術では20近く仕込んでようやく4尾程度だけれど、私一人が食べる分にはそれでなんとかなる。

 ……決しておいしいものを食べているとは言い難いけれど。主に塩気が足りない。

 商人とやらが来るようになったら、是非とも塩を売ってもらおう。そのためには、何か取引になるものが無いとだめよね。魚の皮をなめしておいてみようかしら? それともやっぱり狐とか獣の革の方がいいのかしら。少しずつ見かけなくなってはいるけれどまだちらほら見かけるときがある。

 でも狐はなぁ。この間肉を譲ってやったから少し気がとがめる。それに肉が臭くて食べにくいし。

 やっぱりうさぎよね。基本は。あとは鳥。卵がある時期じゃ無いし、多分群れで暖を取ってるだろうから早々手出しはできないだろうけど、群れからはぐれた奴がいればなんとかなると思う。ちょっとかわいそうだけどそういうのははぐれた奴が悪い。それが自然界の掟というものだ。


「……まあ現状は野駆ける狐に とらぬたぬきの値を付ける かわざんようってやつよね」


 『野駆ける狐に値を付ける』というのはつまり、まだ捕まえていない獲物を売る算段をすることを言う。一流の狩人であればそれも『目標をちゃんと定めている』と見ることができないでも無いけれど、普通に考えれば身の程知らずとか夢見がちな言動のことになる。特に狩のことをかけらも知らない農民なんかは、尻尾や毛皮を高値で売れる狐を気軽に狩って来いとか言い出すので、現実を知らない阿呆扱いして言うこともある。

 さて、私の場合は……まあ、二流狩人扱いといったところか。実を言うと今、矢が一本も無い。

 薬師の庵を出た時はそれなりの数の矢を用意はしたのだけれど、獲物に打ち込んだ矢の多くは折れてしまうし、獲物から外れた矢は雨に流されたりしてほとんど回収できないのだ。獲物が見つからない焦りと、矢がなくなっていく焦り、二つに対抗できるほど私も強く無い。おかげでせっかくの毒も宝の持ち腐れ。熊に襲われたらまた逃げるしか無いだろう。最近はもっぱら周囲の木の枝から矢柄を自力で削り出しながら精神統一の日々だ。

 あんまり鏃が軽いと刺さらないし、矢柄よりそっちのほうが問題なんだけどね。


「ん、焼けたかな」

「……」

「食べる? あんまり美味しく無いかもしれないけど」

「……」

「食べない、か」


 そして相変わらず少女は食事を取らない。

 私が焼いた魚を食べるのを黙って見ているだけだ。お腹もならない。下手をすれば魚には目もくれず、ただひたすら燃え上がる炎を見ているだけだ。この子の親は、その死体は、私が燃やしてしまった。あの時の炎を彼女は覚えているのだろうか。私は忘れられないけれど、この子には忘れていてほしい。

 ……きっと、無理だと思うけど。

 立ち直ってほしい。もどかしい。でもそれが難しいことはわかっている。

 それにどうすればいいのかだってわかっている。待てばいい。ひたすら待てばいい。


「ん……やっぱり美味しく無い」


 でもただ待つのが何より辛い。


「やっぱり、商人さんがきたら塩と蜂蜜をお願いしよう。長く食べてないとお腹が弱ってて固い物を食べるのは大変らしいし、それにどうせなら美味しいものを食べてほしいしね」


 ……あ、でも次女ちゃんが蜂蜜を舐めてたのを思い出しちゃうかな。もっと別のものを探したほうがいいかしら。でも消毒にも使えるし、殺菌作用あるし、保存量になるし、色々便利らしいのよね。蜂蜜。まあ、彼女に食べさせないで別の使い方をするだけなら購入するのも構わないかしら。

 うーん?

 どうしようかしら。どうしたらいいかしら……って結局野狐ね。とにかく売り物になる獲物が捕れてから考えればいいことよね。

 いや、獲物以前に矢か。


「……」


 っていうか鍬。くわ! 私の目的は美味しいものを食べるんでも生活を充実させるのでもなくて魔法使いになることなのよ! 何が『二流狩人扱いといったところか』よ! いっそ夢見がちな農民のほうがまだ近いのに!

 だめだ、このままじゃ状況に流されて本来の目的を見失ってしまいかねない。

 明日から掘り始めよう。木の板でもなんでもいいから。うん。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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