24着目
「つ……ついたぁ……」
目の前に広がるのは真っ青な湖……にぎりぎり届かないとされる大きさの池。主な理由は深さ。
数年前に地震があって湖岸の一部が崩れ、水位が大きく下がってしまったらしい。つまり条件と努力次第では再び湖に戻すことができるかもしれない、そんな池。それが私の目的地だった。
湖が成った日、百年ごと湖底の中心に一輪だけ咲くという幻の花、水玉華。
この華には強い魔力があるとか、なんだとか、とにかく伝説だったり幻だったりする華である。どうしてそういうことになるのかはわかっていないのだけれど、とにかく決まった湖で百年ごとに咲くのだ。というよりもこの華が咲く池が湖なのだ。この華なら、私が魔法使いになるための正装 の素材に申し分ないと思う。
実際、ほとんどの湖の権利は貴族や魔法使いがすでに買い取っており、無断でそれらの湖から水玉華を採取することは禁止されているらしい。いっそ犯罪だと承知で手に入れることさえ一度は考えた。
だが、時期が悪くて前後十年に水玉華が咲く湖は近隣には存在していない……はずだ。
じゃあどうする? 結論は一つ。
私が自力で湖を作る。
池に水を引いてくるのでもいいし、池の水の出口を埋め立ててもいい。あるいは……池の底を掘って湖と呼べるほど深くするという手段もあるかもしれない。
多分、人に言えば笑われるだろう。
そんなことできるはずがないと言われるだろう。
だけど、私一人で魔獣や幻獣と戦うことと比べればそれでも幾分か現実的なのだ。それが。その手段が。
こんな穴だらけの手段が。
そもそも私は、池が湖になった瞬間に咲くのではないかと期待しているけれど、そうだと決まったわけじゃない。伝説はあくまで、『湖が成った日に、百年ごと』。この池が湖になっても、実際に咲くのは百年後なのかもしれない。不確かすぎる手段かもしれない。
そもそも。ここまでいろいろ言っておいてなんだけど、ほぼ噂の世界だ。
だいたい全部、人づてにそういう話を聞いた、そんな物語を読んだ……そういう話にすぎない。ただ、昔貴族に依頼されてその華を運んだことがあるという話を行商人さんから聞いたのと、リザードマンさんがそういう現象が実際にある事を知っていると言っていただけだ。
それでも、私が魔法使いになるために。その正装 を作るために。これが最も可能性が高い手段なのだ。
多分。
辺境の村娘の知識量とはこのようなものである。
まあ第一目標には近づいたのだから万事良しである。
ただし問題が……すごく率直で身近な問題が一つ。
本気で冬になってしまった。自分で言うのもなんだけど、これで大丈夫なんだろうか? 食べられるものは大分減ってしまっただろう。雨季のせいで燃料になる枯れ木が手に入るかも怪しいし、そうなれば寒さだって辛い。こうなるとせめて春まではリザードマンさんのところで過ごすべきだったような気もするけれど、今更そんな弱音を吐くわけにもいかないし……
とりあえずやると決めたからにはここでなんとかするしかない、よね。
「ええと、一緒にがんばろうね?」
「……」
まだ、だめか。
ええい、迷うな。まずは寝床の確保からだ!
寝床に必要なのは、雨を避ける屋根と、安全性。ある程度の高さにある常緑樹を探して、高い場所にある枝に屋根と床を作る……というのが基本方針でいいだろうか。最悪床は諦めて毛布で吊網寝床 でも作ればいいだろうと思う。風が防げないと寒さは厳しいだろうけど、エルフじゃあるまいし木の枝の上にまともな住居をこしらえるなんてことが出来るはずがない。
……そういえばこの子体温高くて一緒に寝ると気持ちいいんだよなぁ。そういう意味ではいてくれてよかったかもしれない。一人だといろいろ辛かったと思う。
そういえば『腑無し犬』の伝説とかあったな。焼けた金属を食べさせた生き物は、臓腑が無いから餌代がかからない。その体温の恩恵だけを受けることが出来る……という。どう考えてもどこかに魔法が挟まってないと無理だよな。もしかしたら食欲を感じ無いようにした上で魔力で無理やり生かしてるとか……あるいは魔力の籠った金属を食べさせると金属の持つ魔力で死なないとか、そういうのかもしれない。どっちにしろ酷い話には違い無いけれど。
なんにせよ、彼女のためには私はちゃんと生きないといけない。燃料が用意できないなら水を煮沸消毒することはできないし、濾過などで浄化したり、それを貯めるための道具を用意する必要があるかもしれないし、それからやっぱり食べ物だな。足りないものは沢山ある。場合によっては近くを行商人が通りらしいし、彼らから購入することもあるかもしれない。だとすればそれに備えて売れるような毛皮とかを確保するのも大事ね。
何はともあれ全部ここから……ってこの台詞何度目だったかしら。いやいや、変なこと考えてないでtにかくやる。
「あ」
とりあえず一通り準備できたらあれだ。鍬がいるわね。わりと優先で。
いつも読んでくださってありがとうございます。




