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23着目

 串に刺さったうさぎの肉が脂をとかし、受けた火がじゅうじゅうと音を立てる。闇の中に光る目は狐か何かだろうか。万全を期して私は少女に覆いかぶさるように座っているし、弓も短剣も手放してはいないけれど、すべては無理にしても足の一本でも分けてやったほうがお互いのためになるかもしれない。つらつらとそんなことを考えながら、串を取り上げると、風向きが変わったのか肉の匂いが腹に届いた。


「んー……うん。いい匂い。いい匂い。いいにおい……なんだけど……遠いなぁ」


 ため息が出る。狩人として、肉を前になんという罰当たりなことだろうか。情けない……いや、私は魔法使いを目指す推定無職だった。

 しかし自分で言うのもなんだけど、しょうがないことじゃないだろうか。二週間経ってしまったけど、未だに目的地にたどり着く気配は無いのだ。というか、未だ地図によると全行程の三分の一である。多分。長いこと森の中を歩いているせいか距離感とか方角とか結構不安が多いけど、端々には確かに地図に記録された目印と同じものがあるから、道は間違ってないはず。

 本当にあるんだね、熊の形をした岩が三つも並んで。

 もちろん完全な熊の形をしているわけじゃなくて、人間より大きめの縦長で、上の部分が三つ又に分かれていて、覆いかぶさるように丸みのあるだけの岩だけど、見れば誰に言われなくても熊っぽいなと思う程度には熊っぽい。ちょっとした観光名所にでもなっていいようなきもするけれど、こんな森の中にわざわざ道を引いて人が来れるようにする手間を考えればそれほどのものでも無いってことかな。

 熊の形した岩が三つ並んでるから見に行こうぜ!  徒歩三日の距離だけど!

 ……うん。こんな誘い文句じゃ絶対ついていかないでしょうね。実際は三日どころじゃ無いし。

 この子も、反応しなかったし。

 というか、反応しなかったから良かったようなものの、冷静に考えたら熊に家族を襲われた女の子に熊い三連石ってどうなのかしら。普通避けるべきよね。それともこういう刺激でも本人が何かしら感じるきっかけになればいいということなのかしら。リザードマンさんの真意やいかに。


 Groowl!! ぐー


 ……食べましょう。余計な考えごとはやめて。

 本当はこの子のお腹も鳴ってくれたら、嬉しかったんだけど……まだそれは無理みたいね。

 ふと顔をあげると狐らしき影は口を開けて唸っていた。どうやら空腹らしい。よく見ると私がそうしているのと同じように、その足元には小さな影がある。どうやら子持ちらしい。もしかして襲ってこないのは、同じ子持ちと思って遠慮してるんだろうか。

 うさぎの肉から足を一本ねじり切って投げてやると、狐はそれを咥えて首をかしげ……その場で噛み砕いて子狐に口移しで食べさせはじめた。親狐の口から下される肉に子狐ががっついている。こういう光景は何が相手でも微笑ましく思える。一瞬狐白裘とか考えた自分が許せ……なくは無いな。別に。以前会った行商の人によると、貴族の坊ちゃんとかは狐を可愛いとか言うらしい。狐の毛皮の外套着て。世の中なめてるわよね。何考えてんのかわかんないわ。

 ……?

 何か気配を感じて視線を下にやると、少女がこちらを見上げていた。

 もしかしたら狐の親子に思うところがあったのだろうか。目の前でかの親子の交流が行われるのは、かなり残酷な仕打ちだったのかもしれない。一瞬そう思ったけれど、その目に感情は無い。そういえば、目線の高さを考えると、焚き火に遮られてこの子の目には狐が見えていなかった可能性もある。

 つまり、突然肉を投げたけど、この人何をしてるんだろう……みたいな反応のほうが正解に近いということか。

 別に食べ物を粗末にしたいわけじゃ無いからそこは安心してほしい。


「食べる?」


 もう一つの足をもいで口元にもっていっても、受け取ってくれる気配は無い。腹も鳴らない。よだれも出ない。

 寂しいな。もう村を出て一月は経つか。

 最初の三日は村から解放されて意気揚々としていたし、次の三日は物言わぬ少女の世話でとてもそんなことを考える暇もなかった。そして二週間前まではリザードマンさんとナータくんがいた。

 だけどこの二週間、この子と二人きりだ。寂しい。

 話しかける相手がいないことより、話しかけても答えが無いことが寂しくてかなしい。

 しょうがなく、もいだ足を咥え、咀嚼する。ちょっと塩気が足りないか。匂いは良くても、美味しくする技術や手段が手元に無いのは考えものかもしれない。

 そういえば街道を馬車で移動していたことを考えると、この子は家族と街で暮らしていたのかもしれない。そういったことは全くリザードマンさんに聞かなかったし、彼女も客のことはあまり話したく無いと言っていたからはっきりとはわからないけれど……もしかしたら好みの味付けが私とは全然違うかもしれないし、肉を食わない可能性だってあるかもしれない。

 もうリザードマンさんのところにいた時によく考えるべきだった。


「まあ、なんとかなるわよね。そろそろ寝る準備をしましょう」


 来月末には目的地についてる……はず。いや、それだと冬が来てるわね。もっと急ぎましょう。

いつも読んでくださってありがとうございます。

狐白裘とは、以前も書いたかもしれませんが、狐の前足の間の真っ白な柔らかい毛皮だけを集めて作った毛皮のコートのことです。

少ししか取れない毛皮なのでものすごく高価らしいですよ?

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