第一章3 透明な魔物
日の出の光が窓から部屋の中を照らし始めた頃に目が覚めた。
夢は見なかった。見れたとしても不幸な夢だろうから幸いだったと思った。
朝早い時間だったなのもあり、外はとても静かであり、少し肌寒さを感じた。
洗面台で顔を洗い、鏡を見ると見慣れたはずの顔に見慣れない白髪があった。
昨日も見たはずだが、やはり違和感が拭えないな…。
もとの黒髪に早く戻れるといいが。
身支度を軽く済ませて、1階に降りるとそこにはもうおっさんが起きていてパンとスープを用意していてくれた。
物資が足りない中でこうやって工面してくれていると考えると感謝しても仕切れなかった。
昨日の多少の会話の中でおっさんの本名は、わかっているが、親しみをこめておっちゃんと呼ぼうと思う。
おっちゃんは俺の顔を見ると、声をかけてきた。
「よく眠れたか?」
「おかげ様でよく寝れたぜ」
親指を上げてサムズアップし、感謝を伝える。
「そりゃ、良かった」
おっちゃんはそう言うと、昨日書いていたヤツがいるところまでの地図を渡してくれた。精巧な地図だった。
「おっちゃんは、仕事、何やってたんだ?」
「俺は、製図家だった。昔は、ミガリの街で製図屋をやってたんだよ。結構、儲かったんだが、故郷が危ういと聞いてな…」
やはり、ただの素人が書いたものだとは思わなかったが、製図家だったのか。
「そっか…。おっちゃん、いつか俺にも地図を書いてくれ」
「ふん、お前がしっかり勝ったらな」
おっちゃんはやっぱりいい人だった。
俺は朝食を食べ終えて身支度を終わらせたのち、荷物を背負いおっちゃんに声をかけた。
「もう、出発するわ」
おっちゃんは、優しい顔で言う
「せっかくタダで寝床を貸したんだ、良い報告を待っているぞ!…と言っておくが、正直難しいと思う」
当たり前な感想だ。よくわからない人間が何も知らない癖に、村の強い若者を倒したヤツに挑戦すると意気込み、村長に大見得を切ったのだ。
「けどな、俺はお前の度胸を買った。久々に賭けてみたい賭けだったんだ、賭けるしかないだろ?」
「それもそうだな、ありがとよ。やってみせるからな、おっちゃん!その賭け負けないように祈っててくれ」
そう言うと俺は、ドアを開けた。
「またな、おっちゃん。村の出口までの見送りは遠慮しとくぜ」
「またな、ボウズ。生きて帰ってこい。それだけだ」
「おうよ」
俺は、ドアを閉めて道に出る。
道には、まだ誰もいなかった。息を吸うと、朝の空気が肺に広がる。
ーーーーーーーーーー
村の出口から出て、おっちゃんの書いてくれた通りに進んだ。
道中で少し過ったのは、あの剣士と少女についてである。
あの二人は、俺の通った道を先に進んでいたはずだから、先にあの透明な魔物に出会っているのではないか。
だとしたら、もう既に討伐されているのではないか、あの和人の女剣士は圧倒的な強者だったし。
こんなことを考えて油断して例の透明な魔物に殺されたらどうしようもないので警戒は解かなかった。
少しでも魔力の異常があったら、すぐに父さんからもらった剣で対応できるように剣から左手は離さないようにする。
しかし、これができる人間はこれまで五万といたはずだ。なのに倒せなかったのだと考えると、正直これも無駄な気がする。
はぁーーと大きく息を吐く。緊張で手が震える。
故郷に居た時もほとんど一人で魔獣討伐してこなかったことを今さらながらに後悔する。あと、もうすぐで例の場所につく。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ、はぁ」
かなり分の悪い戦いだ。姫を守りながら見えないナニかを相手にするのは、骨が折れる。昨日から、水以外を口にしていない。
どこかから見えない斬撃が飛んでくる。
それに気づくのは、地面に亀裂が走ったり、木が倒れた後だ。
どうにか、研ぎすまされた勘で斬撃を刀を振り、こちらへ向かってくる斬撃よりも大きな斬撃で消す。
明らかな消耗戦だ。姫は戦いが始まった時には、オロオロとしていたが、長引くにつれて、気づいたら安心したのか眠り始めていた。
姫はここ数か月で大きな戦いに巻き込まれることが増えて慣れてしまったのだろうか。
そう思うと自分の小さな時と比べてもますます不憫なものだと感じる。
早く姫に平穏が訪れるように急がねば。
見えないナニかが、いったい何者なのかわからないが、大きな斬撃で周囲の森の木を薙ぎ倒しても姿が一向に見えない。
ここで姫を抱えて逃げるのも考えたが、相手の人数がわからない以上、下手なことをすれば死に直結しかねない。
斬撃の数は徐々に減りつつある気がするが、それでもその場に静止して応じるのが精一杯だった。
魔法の類な気がするが、魔法が使えない私は当然、魔力探知も使えないわけで。
その瞬間だった。死角から小型ナイフが飛んできた。的確に姫の命を狙ったものだ。流れが変わったな。
今出せる最大限の斬撃を小型ナイフが飛んできた方の一体を更地に変えるように飛ばした。一瞬の隙だった。
私の勘が甘くなる一瞬を狙って、目に見えないほど小さな針が背中を目掛けて飛んできた。さっきの小型ナイフの方を警戒しながら、その針の対処を完璧にするのは難しかった。
背中もとより脊髄はどうにか避けたが右腕に刺さってしまった。痛い。
神経毒だろうな。
それも大型の動物をすぐにでも動けなくしてしまうようなものかもしれない。やっぱり、魔力が使えないから、探知が遅れた。
私が死んでも姫だけは逃がさなくては。さっきの最大限の斬撃で小型ナイフが飛んできた方は、更地になり、見えない斬撃は飛んでこなかった。
右手がしびれてきて、動きが鈍くなる。
さっきの針が飛んできた方向に斬撃を再び飛ばすが、前に切り倒したところより広がることは無かった。見えない斬撃がまた飛んでくる。勘が鈍り、少し傷がつく。
「姫ーーー!」
頭の中に亡くなった師匠の声が響く。
『利き手が無くなれば、逆の手を。手が無くなれば足を。両手両足が無くなれば、歯を。何も残っていなければ命を賭して』
刀をすぐ左手に持ち替えたが、間に合いそうにない。目の前の地面が裂けていく。
「シールド!!!!」
叫び声が聞こえた。ギリギリのところでシールドによって斬撃が防がれた。
叫び声が聞こえた方に目を向けた。その声は空の方からしたのだった。
逆光ではっきりと見えない。
しかし、その声には、聞き覚えがあった。
昨日助けた少年だった。少年はすぐに地面に降り立つとシールドを私たちの周囲の全面に展開した。
ーーーーーーー
ヤツがいると言われたところの森に近づいていくと、木々が倒れていく音がして地面が揺れていた。誰かがヤツと戦っていると思い、フロウで体を浮かせ、その震源地へと近づいた。
フロウで浮いている時に衝撃波のようなものがこちらに飛んできていたがどうにかシールドで防ぐことができた。
というか、それ以外に防ぎ方がわからなかったので防げてよかった。
近づいている最中に森の一方向の木々が一瞬の斬撃で倒れた。
事は急を要すると理解し、全速力で近づいた。
すると、昨日の剣士と少女がそこにいたのだった。
剣士は見るからに満身創痍だった。地割れが剣士へと近づいていたが剣士の対応が間に合いそうになかったので、シールドを張り、ギリギリで間に合わせることができた。
けど、結構厳しい状況なのは明らかだった。
「すみません、今の状況は?」
「見えない斬撃が多方面から。敵の数は不明。毒を使うやつが敵にいる」
「わかりました」
今のところどうにかシールドで持ちこたえているが時間と相手の搦め手次第だ。
あの仮説を試すしかない。
「ファイア・コア!!!!!!」
森の木々に最大火力の炎が上空から落ちる。
読んでいただきありがとうございます!まだ拙いですが頑張っていきたいです。
次回は第1章4「種明かし」です。6月10日(水)に更新予定です。
ちょっとキリよく終わらせたいので6月17日(水)に更新することにします。




