第一章1 剣士と少女
魔法陣が強烈な光を放つ。目を閉じてもまぶたが焼かれそうなくらいだった。
「父さん!!!!」
光が球体となり、体の周りが包まれた。どんなに光の球体の面を強くたたいてもビクともしなかった。
「父さん!!!!!!!」
強い吐き気が体を襲い、意識が遠のきそうになる。
必死で父さんからもらった剣を振る。
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少女は女戦士に疑問に思ったことを問う。
「ねぇエダ、この男の子ってどこから来たのかしら」
女剣士であり用心棒代わりのクシエダは、さっきの出来事を振り返る。
姫と先の大戦の影響で使われなくなった教会内で猟から帰ってきて少し休んでいた時のことだった。
急に雲が空を覆い始めて土砂降りの雨が降り始め、それまで近くにいた魔物の気配がいきなり遠ざかったのだった。
異常な事態に何かとんでもないことが起こると思い、警戒していると大きな轟音と閃光がが落ちてきた。
それは、稲妻とは似て非なるものだった。
その閃光が落ちたあたりに目を向けると白髪の少年が肩から腰にかけて剣できられような大きな傷を負いながら血を出しながら父親を叫ぶように呼びながら、持っていた剣を力任せに振ったいた。
少年は興奮状態であり、そのままでは失血死しかねないと思い、事情は分からないが落ち着かせようと近づき軽く木の枝で意識を失わせたのだった。
少年の見た目は、人族の子であり、ほのかに女神の神力のオーラをまとわせていた。
一体、彼が何者なのか、どこから来たのかわからないが姫の身の安全を脅かすような人間であれば、処理しなければならない。
彼が厄介なことに巻き込まれていることは確かであり、私がいくら剣技が秀でていたとしても魔術が使えない以上、姫に危険が及ぶ可能性を極力減らすためにも正直あまり関わりを持ちたくない。
私の気持ちとは裏腹に姫は彼のことを一目見て気にいってしまったようである。
彼が意識を失った後、姫が魔法を使って、彼の負傷を治癒した。
姫は、よっぽど気にいったのだろう、治癒後に膝枕をしていた。
姫は王の子であるが故に同年代の子達と交流する機会が少なく、異性との接し方など無知であった。
なので自分が怪我をした時などに女王様が姫によくやっていた膝枕を少年にしたのだろう。
しばらくして少年が起きてこちらを見てくる。傷が癒えたことやしばらく時間をおいたことで冷静さを取り戻したようだ。
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気を失っていた。だんだんと意識がはっきりしてくる。
周囲は静寂に包まれていたが、時折、鳥のさえずりが聞こえてくる。
また、吸い慣れた新鮮な森の空気が肺全体に行き渡る。
先刻までの状況とは異なり、とても心地が良かった。
少し違和感を覚える。
タイムスリップといえども同じ教会であれば、石畳の上に頭を置いているはずである。
しかし、頭はやわらかなものに触れている。
あまりの心地の良さに忘れていたが、時間飛行の先が安全という保証は、どこにも無いのだ。
少し恐ろしくなったが、意を決して目を開ける。
目を開けるとそこには、これから大きくなりそうな二つの丘と時間を忘れて見つめていたいほど綺麗な美少女の顔があった。
2人の目が合う。
彼女の頬が赤く染まった。
普段であればきっと自分も同じような表情になっただろう。
しかし、ぼんやりとしていた意識が晴れていくにつれて先刻までの惨劇が自分の精神に重くのしかかる。
父は、きっと死んだのだ。俺をかばって。
俺が決断を渋ったために死んだのだ。
母さんも死んだのだ。無抵抗なままに、父さんですら苦戦する相手だ。
きっと何もできなかっただろう。吐き気を感じる。
過去に巻き戻ったところで僕に一体何ができるのだろうか。
何かが解決されたとしてもまた違う問題が起きるだけじゃないのか?
俺がどう足掻こうとも行き着く先もあの災厄じゃないのか?
今は、正直何も考えたくない。
再び目を開けるとは恥ずかしそうに見つめていた少女は、今度は俺を心配そうな目で見つめる。
「お兄さん、大丈夫?」
さっきまであった傷は無くなって痛みは感じない。立ち直れそうにない心の傷はあるが、無関係な他人に心配をさせるわけにもいかない。
「たぶん、」
「そう?、、、」
無理に気丈に振る舞ってもいいが、それはそれで無駄な気を遣わせそうだ。俺は、体を起こして少女に話しかける。
少女は、おそらく見た目からして2、3歳年下に見える。
「俺が負っていた傷を治してくれたのは、君かな?」
少女はニッコリと笑顔をつくって言った。
「うん!」
「ありがとう...」
俺も相手にあわせて笑顔で返す。
彼女の顔は非常に整っており、立ち居振る舞いも上品だ。
おそらくだがこの少女は、貴族階級以上の生まれのように見える。
また特筆すべきなのは、彼女の綺麗な白髪だろう。
日の光次第で金色に見える綺麗なものだ。
彼女の身の上について様々なことを推測してみたが、タイムスリップというシステム上、ここがどこで今がいつなのかがわからないと俺がとるべき行動を決めるのは難しい。
そんなことを考えていたら、少し離れたところにいた武人のような女性が近づいてきて声をかけてきた。
綺麗で嫋やかな和人特有の着くずした和服に、胸元のさらし、腰の左側には、トウノ国特有の文様が刻まれた刀が携えてあった。
昔、父親の冒険者時代の話で聞いた、見る者が見れば強者と一目でわかる恰好で間違いないだろう。
「やぁ、少年。よく眠れたか?」
からかうような口調だが、声音からは茶目っ気を一切感じさせない涼しさを感じた。
正直、目の前の剣士の姿を直視すると目のやり場に困るので目を逸らしながら答える。
「えぇ、まぁ…」
村以外の女性とほとんど話す機会のなかった僕には、これが限界だった。
相手のペースに合わせていたら、ろくなことを言わなそうな気がしたので、こちら側から聞きたい情報を聞き出すことにした。
「すみません、ここがどこか教えていただけませんか」
できるだけ警戒されないように丁寧だが弱そうな雰囲気を出しながら、声にする。その女性は、思い出すようにしながら答える。
「ここは、エパネという町の東端だな」
エパネという町に僕は聞き覚えがなかった。
情報収集をするにしても、この時代を生きていくにも小都市以上の街の冒険者協会に行く必要があるだろう。
「エパネに近い大きな町はどこですか?」
「ミガリだが、お前ミガリを通らずに来たのか?」
剣士が怪訝な顔になる。
転移した話をしてもいいが、転移系の魔術は禁術に指定されていた時代もあるので、お忍びで来てそうな貴族関係者らしき人たちにこの話をするのは、憚られる。
どう言えば、納得いく説明になるかを考えながら言葉にする。
「実は、敵の攻撃に飛ばされてここまで来ました…無我夢中でここに来るまのでのことは、はっきりとは覚えていません」
部分的には、本当であるが本当ではない説明を行う。
何らかの被害者であることを示しながら、保護をされることを期待した一手だ。
貴族に保護され、何かしらの現代知識で利益を生み出すことができたら、かなりできることが増える。
そうなればある程度のことには対応できるだろう。
しかし、剣士の反応はあまりよくなかった。
「そうか…それは息災だったな…。
あいにくと私たちはお金も少ないものでな、多少のケガを治したりすることしはできるが、君の力になることは難しい。申し訳ない」
「いえ、とんでもないです…。ここにあった傷を治していただいただけでも十分です。ありがとうございます!」
形式的な会話を行う。
「そう言ってももらえると助かる。
私たちは、また移動する。お前はもう少し休んで移動するといい。安心しろ。このあたりに魔獣の気配は無い。」
「そうします。」
「また縁があれば..、会うだろう。では、また。行くぞ、アテナ」
少女の名前はアテナというのか。歴史書の中でアテナという少女の名前は聞いたことない。
小さいころ、父さんは僕によく冒険譚を話たり、大きくなってからは歴史書や地誌、魔術書などを聖都から送ってくれた。
今、思えば父さんは僕が過去にタイムスリップする可能性について考えていたのだろうか。
あるいは、ただレイヴン家に伝わる教育方法だったのかもしれない。
僕と私が会話している間、アテナという少女は一言も発さず、下を向いていた。
やはり、何かしら特殊な事情があるらしい。
二人の信頼関係は何となくわかったから剣士が人さらいの類であることは無いだろう。
二人が森の小道を進んで、姿が小さくなり見えなくなってから少し考える。
あの惨劇は過去にタイムスリップしたのだから少なくともまだ起きていないのだ。
誰もまだ死んでいない。
そのための時間転移なのだ。
そう考えないと心が死にそうだった。
日はまだ傾いておらず南中したばかりのように見えるから、日が暮れるまでには時間がある。これからやるべきことを考える。
まずは、冒険者協会を目指そう。
冒険者登録をしてクエストをクリアすれば多少のお金は生みだせるだろう。
さっきの剣士の恰好からしておそらく和人の国トウノ国が隆盛を迎えた後の時代だから、少なくとも300年~50年くらいのタイムスリップだろうから冒険者協会は世界中に広がっている。
それに女神の術式で発動した魔法なのだから変な時代に飛ばされたとは考えにくい。
ミガリの近辺ということはだいぶ故郷の街から離れたところに飛ばされたものだ。
そういえば冒険者協会には粗悪だが無料の宿泊部屋があったはずだから、そこに泊まればいいか。
父さん曰くとてもゆっくりと寝ることができるようなものではないと言っていたのを思い出したが、背に腹は代えられない。
あとミガリに行けば、だいたいの必要なものは揃うだろう。
あの厄災について調べるにしてもミガリは丁度いいだろう。
父さんが言っていたように大規模な世界の厄災ならば、過去の預言書や石板などに厄災についての記述があるかもしれない。
ミガリには有名な女神関連の宗教図書館があったはずだ。
あの時間転移魔法陣に女神が関わっているとしたら、女神はこの厄災という存在について知っていたと予想できる。
推測した通りなら、案外早く手がかりがつかめるかもしれない。
出発して手がかりを探しに行こう。
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二人が通った道を進んだ。
森は静かであり、とても穏やかな風を感じた。魔獣の気配は無く、しばらくは戦闘の心配は無いだろう。
一応、父さんがくれた剣があるし、それなりに魔術についても修得しているから不安は少ないが、大規模な攻撃魔法よりも精密で時間がかかるような魔法を得意としている僕からするとできるだけ避けたいものだ。
それにこの時代の魔術師や剣士などのレベルがどれくらいのものなのかわからない以上避けるべきだろう。
僕が生きていた時代は、少なくとも20年は大きな戦争は無かった時代だから、戦闘面での差は明らかなものだろう。
これからの不安は尽きないが考えてビビるよりも行動あるのみだ。
あとは強い仲間が欲しい。
さっきの剣士は、僕が出会ってきた人物の中でも一番強いだろうし、あの少女は12、3歳で父さんですら魔法陣を必要とするような大きな傷の治癒ができたのだ。できれば協力か同行を願い出たいところだったが露骨に断られたので少し凹んだ。
だんだんとエパネの街が見えてくる。戦争の影響か、建物の多くに氷弾か石弾のような痕跡が残っていた。それにあまり人がいない。ミガリで大きな戦争があったイメージは、ないが本にも出てくるような有名都市だ。戦争で取り合いになるような場所であることは間違いないだろう。その影響でこのエパネの町も巻き込まれたのだろう。
そんなことを考えながら、道を進んでいくが男性ばかりで女性や子供が見当たらない。直近で戦争があったのだろうか。武装した兵士もいた。
町全体が警戒体制といった様子だ。
近くにいたおっさんに最近の町の話について聞く。
「なぁ、おじさん。僕は旅の者だが、最近この近辺でなにがあったのか教えてくれないか」
「フン、よそ者か。この町は先の戦争に巻き込まれ、この有様だ。女、子供は疎開していたからまだ大丈夫だったが、男たちはこの町を守るために戦って体の一部が無くなったやつばっかりだ」
「そんなことが...」
薄々感じていたが、エパネの町の人々のよそ者に対する目は冷たいものだった。
「それにな、ミガリからの食糧の供給が途絶えてるんだ、だからみんな苦労して食料を出し合ってギリギリで生き永らえてるのさ。それも略奪されずに残ったものだけだからな」
「すまない、不躾なことを聞いたな」
「悪いことは言わない、早くこの町から出ていきな」
そう言われ、すぐに町から出ていこうかと思ったが、これはチャンスなのではないかと考える。
「おっさん、もし僕がミガリからの流通を回復させたら、いくら出せる?」
「愚問だな、万が一にでもできたら、100ノミスは出してやるよ」
ノミスという通貨単位は初めて聞いたが、きっと大きな額なのだろう。
「だけど、おっさん。それは誰かがしなきゃ、ずっと供給が無いまま過ごすことになるぜ、それは無理だろう」
おっさんの顔がまじめな顔になる。
「お前みたいなガキンチョに何ができるんだ?」
この時代のこの地域は魔法が使える人が少ないのかもしれない。
魔法自体、僕が生きていた時代はで村の人の中では居なかったが町のほうでは、それなりにいたということは、もしかすると現在進行形でミガリのあたりで戦争が起きているのかもしれない。
あと、この町はお金自体はあるが物資の供給が途絶えているのかもしれない。
ならば、やるべきことは一つだ。
「おっさん、この町で一番偉い人に会わせてくれ」
「はぁ?!」
読んでいただきありがとうございます!
次回は、1章2話「初仕事」です。来週水曜日5/27に更新予定です。




