09 毎日使えるように優しく香るボディミスト。我が国と貿易協定を結び、正規のルートでコスメを輸入していただけないでしょうか
そして、母もまたコソコソ前にやってきた。
「あのクリーム、本当に素晴らしいわ。昔の友人がね、肌を見て、羨ましがっていたの。本当に、ありがとう」
母は微笑んだ。笑顔は向けられたことのない、純粋な瞳だけ。特別なことは何も言わなかった。ただ、自分の作ったコスメが彼らの心を、関係を少しだけ変えたのだろう。
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いつものように王宮の庭園で王女とお茶を楽しんでいた。コスメを誰よりも愛している大切な顧客であり、良き理解者。
「ミュラージュ、いただいた新しい化粧水、本当に素晴らしいわ!肌の調子も良いし、何より、香りを嗅ぐと心が安らぐの。ふふ」
王女様は穏やかな笑顔だが、目の下には、わずかにクマができているのが見えた。王女という立場は誰よりも重い責任を負っている。
多くの公務や人間関係のストレスが心と体を蝕んでいるのだろう。
ここぞとばかりにアロマテラピーの知識を活かして開発した、新作コスメを取り出した。
ラベンダーとカモミールの香りを凝縮した、安眠のオイル。小さな瓶に入った透明なオイルは宝石のように輝く。
「王女様、こちらは心と体を休めるための特別なオイルでございます。寝る前に枕に数滴垂らしてお使いください。香りが王女様の心を安らぎへと導き、深い眠りをもたらしてくれるでしょう」
オイルを王女に献上し、王女は香りを嗅ぐと一瞬、目を見開く。
「まぁ、なんて、不思議な香り」
優しく微笑んだ数日後、再び王宮に呼ばれた。満面の笑みで迎える。
「ミュラージュ、オイルは本当に魔法だったわ!ここ数ヶ月、深い眠りにつくことができなかったのだけれど、昨夜は朝まで一度も目が覚めなかったの。本当にありがとう」
王女様は手を握り、涙を浮かべた。立場から誰にも弱音を吐くことができなかったのだろう心に、寄り添うことができたのだ。
メヌエットの評判は国内に留まらない。工房に隣国エラース王国の特使が訪れ、コスメを熱心に買い求めていたエラース王国王女からのメッセージを携えていた。
「我が国の王女様はメヌエットのコスメを大変お気に召され、ぜひ、我が国でも販売していただきたいと願っております。つきましては我が国と貿易協定を結び、正規のルートでコスメを輸入していただけないでしょうか」
「それは」
申し出は想像をはるかに超えた。世界のことをまだ何も知らない。隣国の文化や人々の好み、商習慣、何もかもが未知数。だが、未知なる世界への好奇心で静かに高揚している。わかるのだ
「喜んで」
申し出を快く受け入れた。エラース王国へ向かう船旅は人生で初めての経験。船上から眺める。どこまでも広がる青い海は胸に新たな冒険への期待を膨らませてきた。
エラース王国に到着した日にはまず、街の賑わいに驚いた。故郷とは街並みも、人々の服装も肌の色さえも違うと市場を歩き回り、暮らしを美の価値観を観察。エラース王国の国民は小麦色の肌を好み、肌を健康的に見せるために、蜂蜜や油を塗る習慣があるらしい。
だが、故郷では当たり前だった香りの良いコスメは、ほとんど存在していなくて。国の人にコスメをどう受け入れてもらえるか、考えを巡らせた。
自国の製品をそのまま売るだけでは、成功しないだろうしとエラース王国の王女と面会し、国の文化や美の流行について詳しく教えてもらう。
王女はコスメブランドを心から愛してくれており、話に熱心に耳を傾けてくれた。
「ミュラージュ様。我が国には肌を健康的に見せるためのコスメはありますが、癒すような香りのコスメはほとんどありません。あなたのコスメはきっと、我が国の心を豊かにしてくれるでしょう」
コスメは国に美しさだけでなく、安らぎという新しい価値を提供できると確信に至る。エラース王国の文化を尊重し、好みに合わせた新しい香りのコスメを開発する挑戦は海を越え、この地で始まったのだった。
エラース王国での挑戦は想像していたよりもはるかに困難で。健康的な小麦色の肌を美しさの象徴としていたため、故郷で流行しているような肌を白く見せるためのメイクアップ製品はほとんど受け入れられず。項垂れる。
「ミュラージュ様。あなたのコスメは、まるで雪のように白い肌を作る。それは、私たちが目指す美しさとは違うのです」
エラース王国の王女は国の価値観を丁寧に説明してくれた。真摯に受け止めていく。コスメを押し付けるために来たのではなく、美しさをさらに輝かせるための手助けをするために来たのだと改める。
工房にこもり、文化に合わせた新しいコスメの開発に着手。目をつけたのは国に自生する太陽の実という果実。実は肌に塗るとほんのりと艶を与え、健康的な輝きを放つという言い伝えがある。
実を蒸留し、油と混ぜ合わせて肌に自然な輝きを与えるグロウ・オイルを開発。オイルは肌の潤いを保ちながら健康的な肌色をより美しく見せる効果がある。
次にまだ存在しない香りの魔法を広めることにした。国の女性たちは肌のお手入れには熱心だったが、香水は特別な日にしか使わないという習慣があり、女性たちが毎日使えるように優しく香るボディミストを作る。




