03 肌に刺激を与えて炎症を起こすように細工「おっ、お姉様のせいよ!お姉様が何かしたんでしょう!」
こちらの復讐はこれだけでは終わらない。次のターゲットは義理の妹、ルフィルル。
叩き潰さないとまた余計なことを考えるだろうから。美しさにかけてはあの子は劣らないと自負して、彼女は今社交界で最も注目されているグラフェンの隣にいる。女性が権力を手にするには、美しい外見と有力な男性を手に入れることが最も近道なのだ。
両方を持っていると思っていたのだが、脆くも崩れ去ることになる。なんせ、ルフィルルの侍女の一人に、ある特別なコスメを渡しておいたから。
コスメは、一見すると、普通の肌用のクリームに見えるけれど特定のハーブと混ぜ合わせると、肌に刺激を与え、炎症を起こすように細工がしてあった。
えげつないし、コスメを作った本人がやるには倫理観がと思われるかもしれないが、彼女がやったことはこちらの人生を壊したことと同じ。
もちろん、ハーブはルフィルルがグラフェンからもらった特別なブーケに使われているもの。パーティーの最中、ルフィルルの顔に異変が起きた。頬が赤く腫れ上がり、蕁麻疹のようにぶつぶつが浮き出てきたのだ。
「い、きゃっ!え、な、何なの、これ」
ルフィルルは悲鳴をあげて顔を覆った。
「まぁ、ルフィルル様、どうしたのですか?魔女のようですよ」
周囲の令嬢たちからくすくすという笑い声が漏れた。ルフィルルは顔を真っ赤にし、睨みつける。
「おっ、お姉様のせいよ!お姉様が何かしたんでしょう!」
叫んだが、証拠などないではないか。
「招待されただけです。それにそのお顔、グラフェンからいただいたハーブの香りがするわね。もしかしてそのハーブが原因?」
ルフィルルは絶望に顔を歪ませた。彼女が使っていたのはグラフェンが贈ったものだし、ハーブと彼女が使っていた化粧品の相性が悪かった、ということにされたのだ。
これでグラフェンの愛した美少女から、顔がただれた娘へと転落した。復讐は決して派手ではないが、相手が最も大切にしているものを静かに、奪い取るのみ。
こちらの婚約者を横取りしたのは、報いであると言われている。ルフィルルの醜態は、あちらこちらの社交界で笑い者となった。
「あの醜い顔で、グラフェンの隣にいるなんて、かわいそうね」
「もしかして、グラフェンももう彼女に飽きてしまったのかしら?」
噂が飛び交う中、グラフェンは意外にも彼女を守ろうと必死になっていた。しかし、ルフィルルは顔の炎症が治らず、人前に出ることを避けるように。関係は徐々に冷え切っていった。
このまま、自然消滅を待つという手もあったがそれでは気が済まない。グラフェンのプライドを最も大切な場所で、木っ端微塵に打ち砕くことにした。
工場に入って壊そうとしたり、めちゃくちゃにしようとしたことは忘れてない。
グラフェンは公爵家の跡取りとして、経済学に精通していると自負し、様々な商会に投資を行い手腕を社交界で誇っていた。
彼が投資に失敗し、莫大な負債を抱えることになったら、どうなるだろうか。株価操作と空売りの知識を使い、投資先を徹底的に調べ上げた。
最も大きな金額を投資している商会が、実はもうすぐ倒産寸前であることを突き止めて商会の信用を失墜させるための偽情報を、周到に準備。
そして、運命の日。
社交界の新聞に商会に関する虚偽の破産情報が掲載された。もちろん、情報源は己だ。
「〇〇商会、経営破綻か!」
という見出しは瞬く間に社交界を駆け巡り、投資家たちはパニックに。我先にと株を売りに走り、株価は暴落、数日のうちに商会は本当に経営破綻に追い込まれた。
商会に莫大な投資をしていたグラフェンは、すべてを失う。彼の父である公爵様は息子が引き起こした不祥事に激怒し、勘当するとまで言い出したとか。
公爵家は長年の投資の失敗により、莫大な負債を抱えることになったのだと、グラフェンのプライドは完全に打ち砕かれた。もう社交界の表舞台に立つことはできなくなった。
人々に嘲笑され、蔑まれ、ただの無能な男として彼の存在は忘れ去られていった全てを仕組んだのが、元婚約者であるということを最後まで知ることはない。こちらの存在を金儲けに長けた女としか見ていなかったから。
彼よりも遥かに多くの知識と実行するだけの知性を持っていた、まだ誰も知らない情報を武器に全てを奪い去れた。
その一方で、コスメブランドのメヌエットは王家御用達のブランドとして、不動の地位を築いている。
「これで、すべて終わり」
窓から公爵家の屋敷を眺めながら、静かに呟いた。この人生はあの日の婚約破棄から、新しく始まった。
最高のハッピーエンドを掴み取ったのだ。
グラフェンとルフィルルへの復讐を終えた後、日常は煩わしさから解放され、充実したものに変わっていった。
朝は工房で新しいコスメの開発に没頭する。昼は、商会の経営状況をチェックし、午後は王女や有力な貴族の方々とのお茶会で製品の感想を聞く。
そんなある日、王都一番の宝石商であるドゥラン商会からとあるパーティーへの招待状を受け取った。




