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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
第二部 隆造編後編 ― 時代に裂かれる布 ―
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第十九話 星を見上げる少年、尚造

1902年。

仲村工房の周りでは、

静かな日々が続いていた。


だがその年、

比嘉家では少し事情が違っていた。


海の仕事で家を空ける秀伍。

残された家には、双子の幼い娘と、

一人で家を守る妻・トヨ。


それを見た尚綾は、ある提案をする。


「みんなで泊まればいいのです」


こうして仲村家と比嘉家は、

村の裏山で一夜を過ごすことになった。


それはただの小さな出来事。


だがその夜、

隆造は息子に

一つの大事なことを教える。


そして尚造は、

あるものを見つけてしまう。

夕暮れの丘。

 

村の裏山は、

草の匂いと海風が混ざっていた。


小さな焚き火の周りで、

仲村家と比嘉家が輪になって座っている。


双子の娘たちは草を摘み、

尚造は空を見上げていた。


やがて夜が深まり、

空いっぱいに星が広がる。


尚造は急に立ち上がった。

「見てください!」


双子たちが顔を上げる。


挿絵(By みてみん)


尚造は指を伸ばす。

「北の空、あの明るい星。

 北極星です」


双子の一人が言う。

「きれい!」


尚造は止まらない。

「あの並びは北斗七星で、

 あそこを辿ると北極星に――」


砂の上に線を描き始める。

「それで星は少しずつ動いて――」


双子は顔を見合わせた。

「……?」


もう一人は草で遊び始める。


尚造はまだ説明している。

「だから夜でも方角が――」


トヨが苦笑する。

「尚造くん、

 少しゆっくり話してくれる?」


尚造はきょとんとした。


隆造はその様子を見て、

静かに声をかける。


「尚造」


「はい」


「少し歩こう」


尚造は少し不安そうに立ち上がる。

叱られるのだろうと思った。


二人は丘の端まで歩いた。

夜風が静かに吹いている。


隆造は空を見上げた。


「尚造」


「お前は、よく見ている」


尚造は驚いた。

褒められたからだ。


隆造は続ける。


「星も、風も、人の話も」


「よく覚えている」


尚造は少し誇らしそうに笑う。

だが隆造は言った。


「だがな」


「見えるものを

 全部言う必要はない」


挿絵(By みてみん)


尚造は首を傾げる。

「どうしてですか?」


隆造は少し星を見て言う。


「本当に賢い人間はな、

 必要な時だけ口を開く」


尚造は考える。

「……黙っていた方がいいんですか?」


隆造は首を振る。

「違う」


「話す価値のある言葉だけ話せ」


そして付け加える。


「秀伍は、そういう男だ」


尚造は丘の下を見る。


焚き火のそばで、

トヨが双子を抱いて笑っている。


「……はい」


尚造は小さく頷いた。



夜が更ける。


子どもたちは眠り、

焚き火は小さくなっていた。


トヨがぽつりと言う。

「今日は助かりました」


尚綾が微笑む。

「何がです?」


「子どもたちが、楽しそうで」


トヨは少し照れる。


「秀伍が海に出ると、

 家が静かすぎるんです」


「子どもは可愛いんですけどね」


少し沈黙。


「大人が一人だと、

 家って壊れそうになるんですよ」


挿絵(By みてみん)


隆造が穏やかに言う。


「家は、一人で守るものではありません」


「近所で守るものです」


トヨは笑った。

「じゃあ……

 また頼っていいですか?」


隆造も笑う。

「もちろん」



少し離れた場所。

尚造は寝たふりをしていた。


焚き火の方を見ながら言う。

「父さま」


隆造が振り向く。

「どうした」


尚造は小さく言う。

「トヨさん」


「笑ってるのに

 ちょっと悲しそうです」


隆造は少し驚いた。

そして静かに言う。


「人はな、尚造」


「強い時ほど笑う」


尚造は考える。

「どうしてですか?」


隆造は言う。

「周りを安心させるためだ」


尚造は小さく頷いた。

「じゃあ……」


「気付いても

 言わない方がいいんですね」


隆造は少し笑う。

「言わない方がいい時もある」


尚造は空を見上げる。

星が静かに瞬いている。


その並びを、

まるで何かを覚えるように。



翌朝。


尚造は丘の上で空を見ていた。


双子が聞く。

「何見てるの?」


尚造は答える。

「星です」


少し考えてから言う。


「星を見ると

 迷わなくなります」


隆造はそれを聞いて、

静かに微笑んだ。


だがその言葉が、

いつか本当に必要になることを――


まだ誰も知らなかった。



(つづく)

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