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Bingata Legacy 〜沖縄戦×米軍基地配置×禁忌の紅型〜  作者: ちま
外伝・尚典編 ― 干しアワビ王子の迷走 ―
83/138

第二話 干しアワビ王子、礼儀正しく天然を披露

東京での初デビューを終えた

干しアワビ王子・尚典。


次は、父・尚泰と伊藤博文の前で

挨拶をする大仕事が待っている。


しかし、天然お上りさんの血は止められない。

礼儀正しくしようと努力するほど、

天然ギャップが炸裂するのであった。

広間に一歩足を踏み入れると、

そこには厳かに座する尚泰と、

穏やかに待つ伊藤の姿があった。


空気が、違う。


「尚典殿」


「こちらが東京の社交界での第一歩です」


従者がそっと耳打ちする。


尚典は背筋を伸ばした。


王府時代の威厳を、

ここで崩すわけにはいかない。


「失礼いたします……!」


完璧な礼――のはずだった。


カツン。


「うっ」


長すぎる礼服の裾が床に引っかかる。


挿絵(By みてみん)


ほんのわずかな乱れ。

しかし王子にとっては重大事故である。


「うう……これは……」


尚典はその場で止まった。


「ええと……これは、失礼に……?」


判断基準がそこにある。



伊藤は眉ひとつ動かさない。


「尚典殿、慌てずに」


「礼は大事ですが、

 落ち着くこともまた礼儀の一つです」


優しい。

だが逃げ道はない。



尚典は深呼吸を一度、二度。


(落ち着け……)


(これは戦ではない……)


少し違う。



深緋色の礼服を整える。

しかしその動きはどこかぎこちない。


結果として、


()()()()()()()()()()()()()


という新しい状態が完成した。



一方――


従者はすでにペンを走らせていた。


『尚典殿』


『上京初日、社交界デビュー成功(暫定)』


『礼:完璧(物理的につまずく)』


『精神状態:安定して混乱』


一拍置いて、追記。


『総評:天然は制御不能』


『姉上と隆造殿への報告価値:極めて高い』



――数日後、沖縄。


静かな午後。

潮の音が遠くに響く。


尚綾は手紙を開いた。


「……あら」


一行、読む。

二行、読む。


三行目で、肩が震えた。


「ふふ……っ」


堪えきれない。


「隆造、これ……見て」


隆造は湯のみを置き、手紙を受け取る。


読む。

止まる。

もう一度読む。


「……これは」


一瞬の沈黙。


そして。


「ははは……!」


吹き出した。


挿絵(By みてみん)


「礼:完璧(物理的につまずく)って……」


「それはもう完璧ではないのでは……?」


尚綾は笑いながら言う。


「でも、あの子らしいわ」


隆造も、少しだけ優しく笑った。


「……そうだな」



遠く離れた東京で、


尚典は今日も真剣に、

礼儀と向き合っている。


その努力が、

こうして笑いになっていることを――


まだ知らない。


「……これで、挨拶は無事に……?」


本人は、いたって真面目である。



干しアワビ王子、


礼儀正しく振る舞おうとするたび、

天然が混ざるという新技術を習得。


こうして、


王府王子としての誇りと、

明治東京の天然お上りさんキャラの二重生活は、


ますます安定して迷走を始めたのであった。



(つづく)

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