第十七話 後日談・新婚旅行報告
昼・仲村工房
作業音。
紅型の色が並ぶ、いつもの午後。
継
型紙を確認中。
スマホが震える。
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【白石ひより → 継】
ひより
《ご無沙汰しています
新婚旅行から戻りました》
継
(即・嫌な予感)
継(心の声)
(無事か?
あの男は無事なのか)
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継、慎重に返信
継
《おかえりなさい。
お疲れさまでした》
一拍。
継
《……差し支えなければ
どちらへ?》
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ひよりの報告(穏やか)
ひより
《国内です》
継
(よし)
ひより
《移動少なめで
温泉があるところ》
継
(よし……!)
ひより
《予定は
ほとんど決めませんでした》
継
(最高の選択)
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継、核心に踏み込む
継
《林は大丈夫でしたか》
既読がつくまで、3秒。
継、息を止める。
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ひより、即答
ひより
《はい》
継
(短い良い返事)
ひより
《初日は旅程表を
三回書き直してましたが》
継
(想定内)
ひより
《二日目から諦めました》
継
(勝った)
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追撃報告
ひより
《地図を見ながら迷うのが
楽しいと言ってました》
継
(奇跡)
ひより
《温泉では
時間を測ろうとして》
ひより
《止めました》
継
(ありがとう。
本当にありがとう)
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継、安堵
継
《……それなら何よりです》
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ひより、最後の一文
ひより
《継くんが高層ビルを
止めてくれたおかげで》
ひより
《全部
地に足のついた
旅行でした》
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継、静かに天を仰ぐ
継(独白)
俺は結婚式で胃を壊し、
新婚旅行で胃を心配し、
今ようやく平地に戻った。
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オチ
その夜。
【林 → 継】
林
《報告》
継
(身構える)
林
《迷ったが》
継
《知ってる》
林
《楽しかった》
継
《……それなら
もう何も言わない》
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締め・継の独白
世界を動かす男は、
まだよく迷う。
だが、
迷いながら
帰ってくる場所を
手に入れた。
——それなら
俺の役目はもう終わりだ。
(胃薬は引き出しに戻した)
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(つづく)
※次回予告
奥様ランチ、開幕。
穏やかな会話のはずが、なぜか全員静かになります。
その日の主役は――ひよりです。




