第十六話 初夜、林明浩は道に迷う
夜・ホテル客室
照明は落ち着いた暖色。
ベッドは広い。
無駄に静か。
林 明浩
部屋に入った瞬間、動きが止まる。
ひより
「……疲れましたね」
林
「……ああ」
会話、終了。
沈黙。
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林、異変に気づく
林(心の声)
(会議より静かだな)
ひより、ソファに座る。
ひより
「今日は長かったです」
林
「……そうだな」
また沈黙。
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林、経験値が役に立たない
林(心の声)
(今までなら流れがあったはずだ)
(だが)
(今日は流れが見えない)
ひよりが、髪を耳にかける。
林、視線を逸らす。
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林、完全に迷子
林
「……」
ひより
「……?」
林
「その」
ひより
「はい」
林
「今日は」
止まる。
林
「……どうすればいい?」
沈黙。
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ひより、理解する
ひより、少し驚いてから微笑む。
ひより
「迷ってます?」
林
「……はい」
即答。
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林の告白(業務報告みたい)
林
「正直に言う」
ひより
「はい」
林
「君を前にすると」
林
「判断基準が全部使えない」
ひより
「……」
林
「正解も効率も分からない」
ひより
「それで?」
林
「——動けない」
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ひより、静かに手を差し出す
ひより
「では」
ひより
「今日は考えなくていいです」
林
「……」
ひより
「一緒に迷いましょう」
林、少しだけ笑う。
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二人、並んで座る
距離は近い。
だが急がない。
林
「……こんな夜は初めてだ」
ひより
「私もです」
林
「君は落ち着いてるな」
ひより
「いいえ」
ひより
「心臓忙しいです」
林
「……」
林
「それを聞いて
少し安心しました」
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消灯
灯りが落ちる。
会話は続かない。
でも、不安はない。
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林・独白
世界を相手にするとき
俺は迷わなかった
だが今
一人の人生の前で
俺は道を失っている
——悪くない
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小さなオチ
翌朝。
ひより
「よく眠れました?」
林
「……はい」
一拍。
林
「昨日より少し
地図ができました」
ひより
「それは進歩ですね」
林
「はい」
真顔。
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(つづく)
※次回予告
新婚旅行、スタート。
ですがこの夫婦、ちょっとだけ普通じゃありません。
ひよりは林の“とんでもない計画”を止められるのか……?




