第十五話 継、世界の重力から解放される
結婚式・完全終了後
会場スタッフの
「お疲れさまでした〜!」
という明るい声。
扉が閉まる。
——静寂。
継
「…………」
一歩も動かない。
健太
「継さん?」
継
「……終わった?」
彩乃
「終わりました」
継
「本当に?」
彩乃
「スピーチも事故も号泣も全部」
継
「…………」
次の瞬間。
継
「うおおおおお……」
その場に座り込む。
健太
「そこ!新郎の通路!」
継
「無理。
脚が俺を拒否してる」
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胃薬・最終章
継、ポケットを探る。
——空。
継
「……ない」
健太
「まさか」
継
「昨日で全部飲み切った」
彩乃
「伝説ですね」
継
「俺はこの式で
一生分の胃を使った」
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そこへ新郎新婦
ひより、ドレスのまま。
林、まだ少し赤い目。
ひより
「継さん」
継
「……はい」
ひより
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
継
「やめてください。
胃が反射で戻ります」
林
「継」
継
「はい」
林
「——本当にありがとう」
短く、真剣に。
継
「……」
継
「一つだけ
言わせてください」
林
「何だ」
継
「二度と
友人代表スピーチを
俺に頼まないでください」
即答。
林
「……努力する」
継
「約束じゃないのが怖い」
ひより、笑う。
⸻
完全解放宣言
彩乃
「継さん」
継
「はい」
彩乃
「これで
“世界史”から解放です」
健太
「今からは“家庭史”ですね」
継
「……それ、
俺関係ないよな?」
健太
「巻き込まれる側です」
継
「でしょうね」
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継・最後の独白
紅型は、
人の手を
離れた瞬間に
完成する。
今日、
俺が縫っていたのは、
衣装じゃない。
覚悟と覚悟の
縫い目だった。
もうほどけない。
あとは、
当人たちが
着ていけばいい。
⸻
エピローグ的小オチ
帰り道。
継、夜風に当たる。
ポケット。
——小さな箱。
胃薬。
継
「……一個残ってた」
見上げる夜空。
継
「飲まない」
ポケットに戻す。
継
「今日はちゃんと終わったから」
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(つづく)
※次回予告
結婚式は無事終了。
静かな夜。広い部屋。
完璧な状況――のはずが、なぜか会話が止まります。
社長、まさかの迷子です(笑)




