第十四話 世界を動かす男の、可愛い事故
披露宴・中盤
和やかな空気。
料理も進み、会場は温度を帯びている。
林、マイクを手に取る。
——が。
ガタッ。
マイクが床に落ちる。
静まり返る一瞬。
林
「……」
完全に固まる。
ひより
(小声)
「大丈夫ですよ」
林
「……マイクが」
継(遠くから)
(あ、来たな)
スタッフがすぐ対応。
拍手混じりの笑い。
林、耳まで赤い。
林(心の声)
(世界会議より難易度が高い)
ひより、そっと林の手に触れる。
ひより
「今の可愛かったです」
林
「……そう言われると
余計に困ります」
ひより、笑う。
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事故の余波
テーブルを回る林。
親族
「緊張してます?」
林
「……はい
想定外が多すぎます」
継
「マイク一つで
この顔する男、
初めて見た」
林
「笑うな」
継
「いや今日は
人として正しい」
⸻
〆・父の挨拶
会場が改まる。
林の父、立ち上がる。
背筋は伸びているが、
声は少しだけ震えている。
父
「本日は
お集まりいただき、
ありがとうございます」
林、姿勢を正す。
父
「私は息子に
多くを教えました」
父
「考えること。
決めること。
責任を取ること」
林、静かに聞く。
父
「ですが一つだけ
教えられなかった」
間。
父
「——誰かと一緒に生きる
ということです」
林、喉が鳴る。
父
「それを今日、
この人から
学ばせてもらいました」
父、ひよりに頭を下げる。
林
「……っ」
父
「不器用な息子ですが、
どうかよろしくお願いします」
その瞬間。
林の目から一気に涙。
止まらない。
肩が小さく揺れる。
ひより、驚きつつ、
そっとハンカチを差し出す。
林
「……すみません」
ひより
「約束でしたよね。
黙らないって」
林
「……はい」
涙を拭いながら
それでも泣いている。
継(独白)
ああ。
これは事故じゃない。
着地だ。
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章の締め
拍手。
林、まだ少し赤い目で
父に深く頭を下げる。
父、うなずく。
世界を動かす男は、
この日初めて
誰かの息子に戻った。
⸻
(つづく)




