第十二話 逃げ場のない誓い
結婚式当日
ひよりの希望により、
沖縄本島の小さな文化施設で挙式した。
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① 衣装最終チェック
場所:仲村工房・式場裏控室
継、最後の糸を指でなぞる。
深紺の新郎衣装。
動くと、裏地の紅型が一瞬だけ覗く。
継
「……立って」
林、言われた通り立つ。
継
「座って」
林、座る。
継
「歩いて」
林、歩く。
沈黙。
継
「——よし」
健太
「完璧ですね」
彩乃
「“社長”じゃなくて
“夫”の背中してます」
林、戸惑いながら笑う。
林
「……それは褒め言葉か?」
継
「今日一番のな」
継、胃薬をポケットに入れる。
継(心)
「ここまでは仕事だ」
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② 新婦控室
場所:新婦控室
白石ひより、衣装に包まれている。
生成りの布。
淡い桜色と水色。
派手ではないが、柔らかい。
母、静かに裾を整える。
母
「似合うね」
ひより
「……派手じゃない?」
母
「生活する人の服だもの」
祖母、少し離れて眺める。
祖母
「あの人強そうだね」
ひより
「はい
でも疲れやすいです」
祖母、笑う。
祖母
「ならちゃんと帰ってくる」
母、ひよりの手を握る。
母
「頑張らなくていいよ」
ひより
「うん」
母
「逃げなくていい」
ひより
「……うん」
短い沈黙。
母
「それだけ覚えていればいい」
ひより、深く頷く。
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③ 新郎新婦対面
場所:式場裏・控え通路
継、二人を連れてくる。
継
「……じゃあ
ここから先は二人で」
継、即撤退。
(胃薬は飲まない)
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林とひより、向かい合う。
一瞬、言葉がない。
林
「……綺麗だ」
ひより
「ありがとうございます」
林
「その——
落ち着く」
ひより、微笑む。
ひより
「逃げ場ありますか?」
林
「……ないですね」
ひより
「よかった」
林、少し笑う。
林
「僕は今日も
説明しないつもりです」
ひより
「知ってます」
ひより
「一緒に立つだけで十分です」
林、ゆっくり息を吐く。
林
「……お願いします」
ひより
「はい」
二人、並ぶ。
扉の向こう、ざわめき。
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締め・継の視点(遠景)
継、少し離れた場所で見ている。
継(独白)
世界を相手にする男が
今日は一人の隣に立つ。
それだけで十分だ。
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(つづく)




