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第十一話 スピーチ原稿、完成
場所:仲村工房・深夜
作業灯ひとつ。
継、机に向かう。
ノートの表紙。
《披露宴スピーチ(林 明浩)》
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継、書き出す。
「本日はご結婚、
誠におめでとうございます——」
止まる。
継
「違う」
線を引く。
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二稿目。
「林社長は世界を相手に——」
継
「披露宴で世界を出すな」
×。
⸻
三稿目。
「彼は非常に優秀で、合理的で——」
継
「本人が一番嫌うやつだ」
破棄。
⸻
胃薬、一錠。
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四稿目。
「林は正直、扱いにくい人間です」
継
「……事実だが言うな」
薄く線。
⸻
五稿目。
「完璧な夫ではありません」
継
「新郎側だぞ」
××。
⸻
未明。紙は×だらけ。
継、最後に一文だけ書く。
⸻
「林明浩は、
世界を理解するより先に、
一人の人生を引き受けることを
選びました」
継、ペンを止める。
継
「……これでいい」
⸻
LINE。
【健太】
《進んでるか?》
【彩乃】
《重くしすぎ注意!》
継
《重くはしてない》
《重くならざるを得ない男なだけだ》
⸻
継、ノートを閉じる。
継(独白)
紅型は未完成を許される。
だがスピーチは一瞬で完成する。
だから言葉は削る。
⸻
継
「……あとは本番で縫うだけだ」
⸻
(つづく)
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