第七話 世界で一番、静かな決断
事件は、LINEから始まった。
深夜。仲村工房、作業終わり。
継のスマホが震える。
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【林 → 継】
林
《相談がある》
継(即、嫌な予感)
林
《高層ビル最上階の
絶景レストランで
プロポーズしようと思う》
継、既読と同時に立ち上がる。
継
《やめろ》
林
《なぜ》
継
《理由が多すぎる》
林
《ロマンチックだと思うが》
継
《お前のロマンはだいたい
“逃げ場がない”》
林
《成功率は高い》
継
《圧迫面接か》
継、畳みかける。
継
《いいか》
《白石さんは》
継
《景色に
気持ちを預けるタイプじゃない》
林
《……》
継
《静かで》
《生活の延長線にある場所》
継
《そこで》
《自分の言葉で言え》
長い既読沈黙。
林
《分かった》
継(小声)
「よし……」
⸻
プロポーズ当日。
場所は、夕方の河川敷。
人は少ない。
風が、穏やかに流れている。
白石ひよりが、隣を歩く。
ひより
「今日は少し静かですね」
林 明浩が、立ち止まる。
林
「話がある」
ひよりも、足を止める。
林
「君と出会ってから
僕はずっと“評価しない練習”をしている」
ひより、少し驚く。
林
「君を条件で見ない」
「結論を急がない」
「勝ち負けで決めない」
一呼吸。
林
「正直に言う」
「僕は一人では整わない」
沈黙。
聞こえるのは、風の音だけ。
林
「だから」
「一緒に生活を引き受けてほしい」
指輪は出さない。
ひざもつかない。
ただ、真正面に立つ。
ひよりは、少し考えてから微笑んだ。
ひより
「条件を聞かれなかった
プロポーズは初めてです」
林
「聞く資格がないと思った」
ひより
「……」
「それなら一つだけ」
林、緊張する。
ひより
「壊れそうな時は
黙らないでください」
「言葉が遅れてもいいので」
林
「約束する」
(即答)
ひより、頷く。
ひより
「では」
「よろしくお願いします」
──その瞬間、
二人の生活は、同じ方向を向いた。
⸻
継のもとに、LINEが届く。
【林 → 継】
林
《高層階ではなかった》
継
《知ってる》
林
《派手でもなかった》
継
《知ってる》
林
《だが》
《彼女は逃げなかった》
継、画面を見て小さく笑う。
継(独白)
世界を動かす男が
ようやく一人の人生に着地した。
⸻
(つづく)
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