第六話 幕間・仲村工房にて
親族顔合わせを終えた林明浩。
その“敗北宣言”は、
仲村工房でも
静かな衝撃を巻き起こす――。
今回は、継とスタッフの
胃薬タイムと笑いの一幕。
仲村工房・午後
作業台の端で、
継が小さな白い錠剤を掌に乗せ、
水で流し込む。
ゴク。
健太・彩乃、同時に気づく。
健太
「……それ、胃薬?」
彩乃
「継さん?
顔色、昨日より悪くないです?」
継、無言で頷く。
継
「林家」
健太&彩乃
「「あぁ……」」
(全てを察した声)
彩乃
「顔合わせ?」
継
「付き添い」
健太
「……生きてる?」
継
「肉体は」
一拍。
彩乃
「で?」
継、遠い目。
継
「林、親族の前で一言も逆らえなかった」
健太
「は?」
継
「“今日は私が話します”で、完全沈黙」
彩乃
「うわぁ……」
継、追い打ち。
継
「祖母に“いい子だね”って言われた瞬間、
終わった」
一瞬の静寂。
次の瞬間、健太が爆笑。
彩乃
「無理無理無理!!
あの林社長が!!?」
健太
「国際会議で各国代表黙らせる男が!?」
継
「家では座布団係」
健太、作業台を叩く。
健太
「最高じゃないか!!」
彩乃
「もうダメ、
婚礼衣装作る手が震える(笑)」
継、ため息。
継
「しかもな」
二人、身を乗り出す。
継
「帰り際、俺に小声で——」
継(林の真似)
「『僕はもう勝てない』」
爆発!
健太の爆笑が止まらない。
彩乃
「敗北宣言!!
自主提出!!」
健太
「継、それもう胃薬じゃ足りないわ」
彩乃
「栄養ドリンクつけます?」
継
「いや、これは祝杯前の副作用だ」
その時だった。
カウンター席の奥から、
低い声が聞こえた。
「それは戦略的撤退ですね」
三人が振り向く。
そこには、
軍服姿の男が座っていた。
ジョン・スティーブンス。
在沖米空軍のエースパイロットであり、
この工房の常連客である。
ジョン
「指揮官が戦闘不能になった場合、
部隊は後方に下がる」
健太
「増えた」
継
「聞いてたのか」
ジョンは真顔だった。
ジョン
「家庭とは小規模な作戦単位です」
彩乃
「どこからその話になったんですか」
ジョン
「空母打撃群と似ています」
健太
「似てない」
ジョン
「司令塔は空母」
継
「家庭だ」
ジョン
「航空戦力の運用が」
継
「夫婦だ」
彩乃
「継さん、
ツッコミ忙しそうですね」
健太
「完全に二正面作戦」
継は額を押さえた。
継
「胃薬追加するか……」
健太、ニヤニヤ。
健太
「で、衣装の依頼
いつ来るんです?」
継
「……もう来てる」
彩乃(爆笑)
「早い!!」
継、胃を押さえながら言った。
継
「林はな、
世界には勝てたけど――」
一拍。
継
「適任者には勝てなかった」
ジョンが静かに頷いた。
ジョン
「戦闘機も最後はパイロットです」
継
「たぶん違う」
工房には、
しばらく笑い声が響いていた。
⸻
(つづく)




