第六話 2045年|時空電話が開通しました!
2045年の冬。
天才科学者が、とんでもない発明をしてしまった。
それは――
100年前の人間と電話できる
「時と海を越える電話」!
米国大統領は1945年のホワイトハウスへ、
日本首相は終戦直後の官邸へ電話をかける。
そして、中国・北京に出張中の仲村工房にも、
ついに順番が回ってきた。
林明浩
「継、尚造と電話してみない?」
……えっ!?
これは、紅型がつないだ家族の物語。
そして、日米中の政財界と、
1945年の日本軍を巻き込んだ、
壮大な時空コントである。
※歴史上の人物・出来事を扱ったフィクションです。
2045年。冬。
「完成したぞ!」
「100年前の人間と話せる電話だ!」
天才科学者の発表に、世界がひっくり返った。
各国が使用権を求めて殺到!
国連による協議の結果――
使用者と使用条件を限定して、
まずは米国、日本、中国の三組が
利用することになった。
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そして最初の実験。
2045年の米大統領が、
1945年のホワイトハウスに電話をかけた。
電話に出たのは――
ルーズベルト大統領。
そして、トルーマン副大統領。
未来の大統領が
「原子力に関する話」を始めた瞬間、
トルーマンは目を丸くした。
一方、ルーズベルトは気まずそうに視線を逸らす。
……何が起きたのかは、想像にお任せしよう。
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続いて、日本首相が
1945年の戦後直後の官邸に電話をかける。
電話に出た吉田茂ら外務省の要人たちは、
未来の話に耳を傾けた。
天皇陛下はご健在。
日本は経済大国となり、東京は世界有数の大都市へ。
広島では公園にオオサンショウウオが現れ、
長崎では子どもたちがハウステンボスで遊んでいる。
戦争で焼け野原になった国に、
そんな未来が訪れる。
電話を切った後、
彼らはしばらく言葉を失っていた。
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北京。
仲村工房に順番が回ってきた。
その頃、継、健太、彩乃は、
紅型作品の納品のため北京に滞在していた。
中国政財界の要人たちが、
仲村工房の作品を気に入ってくれたのだ。
そして。
ついに中国側の電話使用の順番がやってきた。
林明浩が、にやりと笑う。
「継」
「尚造と電話してみない?」
「えっ!?」
継は目を見開いた。
「貴重な電話を使っていいんですか?」
「中国の皆さんも話したいことあるはずなのに……」
すると、中国首脳がうなずいた。
「没关系」
(大丈夫です)
「我们也很想听听你们的故事」
(私たちも、あなたたちの物語を聞いてみたいので)
「いや、でも……!」
「いいじゃないか、継!」
林はすでに電話の準備を始めていた。
こうして。
仲村工房の社長は、
中国政財界の好意により、
100年前の先祖に電話をかけることになった。
⸻
1945年1月。
首里城。
「こちら」
「日本軍第32軍司令部である」
電話に出た受付兵士に、継は丁寧に名乗った。
「2045年の仲村工房社長の仲村継です」
「すみませんが」
「仲村尚造さんに代わって頂けますか?」
「…………は?」
受付兵士は固まった。
未来?
仲村工房?
社長?
仲村尚造?
情報量が多すぎる。
結局、電話は尚造へと回された。
牛島、長、八原、薬丸は後ろで聞き耳を立てている。
「……もう一度、名乗ってください」
尚造の声が聞こえた。
「2045年の仲村工房社長、仲村継です」
「100年後の……仲村工房?」
「はい」
「…………」
沈黙。
継は恐る恐る続けた。
「実は」
「中国の政財界の皆さんから」
「電話の使用権を譲っていただいたんです」
電話の向こうで、将校たちが声を上げた。
「中国!?」
「今の日中関係じゃありえない!」
「しかも、政財界が民間人に電話を譲っただと!?」
北京の会議室では、林が肩を震わせていた。
「ふふっ……!」
⸻
継はさらに、とどめを刺す。
「それから」
「尚造さんの紅型作品なんですが……」
「今、世界を旅行しているんです」
「世界?」
東京。
ニューヨーク。
ロンドン。
パリ。
ベルリン。
モスクワ。
北京。
ドバイ。
ケープタウン。
メキシコシティ。
他。
「日本だけじゃなく世界!?」
第32軍メンバーが再び沈黙した。
戦場で布団代わりに持ち歩いていた紅型が、
100年後には世界を巡っている。
しかも。
未来の社長が、
中国の要人に囲まれながら
電話をかけてきた。
……1945年の彼らに、
どう理解しろというのか。
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ひとしきり混乱した後、
継は手元の紅型を見つめた。
そして、静かに口を開いた。
「尚造さん」
「あなたの作品は、今も残っています」
電話の向こうから、声が消えた。
「戦争の記憶も」
「あなたが生きた証も」
「消えていません」
「たくさんの人がこの作品を見て」
「考えています」
尚造は、すぐには返事をしなかった。
「……そうか」
かすかな声が返ってくる。
「この布が、未来まで……」
「はい」
継は笑った。
「あなたが残してくれたものを」
「僕たちが受け継いでいます」
100年前の尚造と、100年後の継。
二人は、紅型を通してつながっていた。
けれど、今この瞬間だけは違う。
手紙でも、記録でも、展示でもない。
声が届いている。
「……継くん」
尚造が呼びかけた。
「はい」
「ありがとう」
短い言葉だった。
けれど、継には十分だった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
「尚造さん」
二人の間に、100年の時が流れていた。
その場にいた誰もが、静かに二人を見守っていた。
……林明浩を除いて。
彼は目元を拭いながら、ぼそりと呟いた。
「いやあ……」
「これは、日米政府が知ったら驚くだろうね?」
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そして、数日後。
日本政府と米国政府は、
継が中国政財界から使用権を譲られ、
第32軍と紅型トークした事実を知った。
両国の首脳は電話会談を開き、
互いに情報を共有した。
「中国側が、そんな使い方をしたのか……」
「まさか、戦時中の日本軍と電話するとは……」
二人はしばらく頭を抱えた。
そして、なぜか意気投合した。
「……今度」
「仲村工房に紅型アロハシャツを注文しよう」
「いいですね」
「同じ日に、同じ時刻に受け取りに行きましょう」
「そうしよう!」
かくして。
日米首脳による
紅型アロハシャツ同時受け取り作戦が立案された。
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一方。
発明者の天才科学者は、
次なる発明を夢見ていた。
「次は1000年前なんてね……」
助手たちは笑った。
時代も、国境も、戦争さえも越えて。
一枚の布が、今日も人と人をつないでいる。
そして、物語もまた、未来へとつづいていく。
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次話、最終話――




